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第十話

「まぁ、姫様!いかがなされました!?」

 巫女エウラーナは、傷だらけの柚月を見るなり、悲鳴に近い声を上げた。

 竜の子供を群れに帰した後、柚月たちが次に訪れたのは、この巫女エウラーナのいる神殿であった。

 柚月たちが通ってきた次元の裂け目は、偶然にできたものであり、柚月たちが通った後すぐに消滅してしまっていた。

 となると、元の世界に帰るには、いつも通っている次元の狭間を通るしかない。
 それならば神殿にも顔を出して、少し体を休めようということになったのだった。

 それに、この世界で他にゆける場所といったら、今の所ここ以外にはない。

「ちょっと……ね。でも平気、大した傷じゃないから」

 重傷なのは、むしろ心に抱えた傷の方だ。
 あれからずっと、剣慈とは気まずい状態が続いている。

 なぜこんなにも胸が痛いのか、柚月自身にもわからなかった。

「大したことあります!こんなに傷だらけになって……やけどまでなさっているじゃありませんか!一体どうなさったのです?」

 たしなめるような口調ではあったが、それは心配故のこと。エウラーナは癒しの術を発動させ、柚月の傷の手当を始めた。

「それがね……」

 柚月は手当を受けながら、ここにきた経緯をかいつまんで説明した。

 オーブル草を求めてアレクトリアにきたこと。
 ヒースの森での出来事。サーガの使徒エルマの登場。

 そして、竜の子供を無事群れの中に返してやったあと、元の世界に戻る途中でここにやってきたこと。

 むろん剣慈とのことは言わなかったが。

「そうでしたか……それは大変でしたね。ともあれ大事がなくて何よりでした」

「元通ってきた次元の狭間は消えてなくなっちゃってて……それでいつもの次元の狭間を通ろうと思ってさ。それでついでにここでちょこっと休ませてもらおうってことになったって訳なの」

「まぁ、それなら、ちょうどよかったですわ」

 エウラーナがにこりとほほえんだ。

「え?どういうこと?」

 柚月がきょとんとすると、扉の向こうからにゅっと人影が現れた。

「はぁい♪柚月チャン!」

「せ、先輩!?」

「キルシス!!なんでここに!?」

 思いがけない人物の登場に、柚月ばかりか、剣慈までもが目を丸くした。

「だぁってさぁ~折角の連休だってのに、剣慈くんもいないし、一人じゃ退屈だなぁ~って思ってさ、ちょいと巫女様のところに顔を出しにきたんだけど……まさかお二人さんが一緒にいたとはねぇ~」

更新日:2009-07-14 13:38:28

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