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 大学を出てから、もう5時間はたっただろう。出発の時はまだ出たばかりだった太陽が高く昇っている。初夏の日差しは少し暑く、たまに吹く風がとても心地よい。
 馬車を乗り換えた俺達はエスタリア北部、辺境の村イザルニに向かう。ヴィーは持ってきた本を読みながらクッキーをつまんでいる。……こいつは、こんな揺れる場所で本を読んで酔わないのだろうか。
 本に夢中のヴィーを邪魔するとうるさいので、手元のエスタリア刀を眺める。

――この剣には現代のものとは決定的に違う特質がある。……刃が、無いのだ。
多くの先達たちは、この剣を儀礼用のものだと判断した。それは当然だろう。エスタリア刀は武器として使うにはあまりに実用的でない。その上、刃の部分に彫り込まれた文様は美術品であったのではないかと疑わせる程の緻密さを持っている。何らかの儀式のために使われた、飾りの剣だと考えるのが自然だ。
しかし……
俺は、このエスタリア刀は実際に戦いにおいて使われていたのではないかと考えている。この剣が残る村々の多くには、英雄伝説や戦物語が伝わっているのだ。
何か、エスタリア刀には専用の剣術があったのではないか?
斬撃ではなく……何か他の手段で敵を打ち倒す技術が。

更新日:2009-08-17 18:19:37

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