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研究背景~character&fields~

 轟音が部屋に響き渡る。壁が振動で小さく震え、隣の部屋で凄まじい爆発が起きていることをほのめかしていた。
――まただ。
 このところ古代魔術の復元にはまっている『奴』が、また失敗したのだろう。
「ごめん、またやっちゃったみたい」
 ドアが開きヴィーが照れくさそうに顔を出した。頭をかきながら苦笑するその顔は、整ってはいるがまだ幼さが抜けきらず、綺麗というより可愛らしいというのが適切な感じがする。
 同回生である彼女は――ヴィーは今年で15になる。俺とは7つ違いの、飛び級少女。何でも14歳の時に学位を取ったというのだから尋常じゃない。世に言う神童ってヤツだ。
 そしてその彼女は今、ウチの研究室にいる。
 この『地域史学研究室』に。

「なぁ、そういやこの間のエスタリアで見つけた古代魔術ってどうなってる?」
「う~ん、進展は無しかなぁ。史料を調べてみたんだけど、現代につながるようなスタイルじゃない感じ。復元も完全に手探り状態だし」
 ヴィーの専門は西部地方の魔術史だ。古代魔術は完全な形で現代に伝わる事が少ないので、現代の術と叩き合わせたり推察を加えたりしながら当時の術を再現し、その魔術史上の役割を見出さなければいけない。
 しかし、たまに存在するのだ。現代に伝わるどの術とも関連性の見いだせない術が。そのような術を現代に再現するのは困難を極める。
 多くの研究者が放置するその問題を積極的に解きにいこうとするヴィーは、やはりただものではないのだろう。
 確かに、それらの術が歴史上重要な気はするのだ。魔術史だけではなく、歴史全体を通しても。誰が言っていたという訳でもないが、俺もその事を自分の……西部地域の武器文化の研究を通じてぼんやりと感じている。


「来週にはまたエスタリアへ調査に行くんだし、その時にもう少し現地で情報収集をしようかな、と思ってるんだけど」
「そうか。まぁ、俺の古代エスタリア刀の研究の方は軌道に乗ってるし、手伝うよ」
「ありがと」
 ヴィーはにっこりと笑うと実験室に戻っていく。俺――リンネルはその後ろ姿を見送ると、またエスタリア刀の柄の文様と古代エスタリア美術の史料との照らし合わせを始めた。


更新日:2010-05-01 22:31:15

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