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あとがき

作品についてですが、お気づきの方もいらっしゃるでしょう。モチーフとなりましたのは、世界最古の小説と呼ばれるところのシュメール文明が生み出しました『ギルガメッシュ叙事詩』がもとになっております。『ギルガメッシュ叙事詩』はご承知の通り、粘土板に刻まれた本でして、古代の図書館から発掘されたものです。あまりにも古いため、あちらこちらエピソードが飛んでいるのですが、概要は次のようなものです。
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 神殿娼婦の子として生まれたギルガメッシュは、エレク国王となった。王は利発ではあったが余りある才能がゆえに傲慢となり時として神をないがしろにする姿勢をとった。神々は、ギルガメッシュが傲慢なのは真の友がいないからだ。と察し、ギルガメッシュと同等の能力をもったエンキドウを使わした。二人は始め争ったがやがて親友となり、杉の木を求めてレバノンに遠征しフンババと争い勝った。
 凱旋したギルガメッシュは、女神イシュタールに求婚されるが袖にして神々の怒りを買い呪いをかけられ、ギルガメッシュの盾となった親友エンキドウを失う。ギルガメッシュは親友エンキドウを失ったことで、〈死〉の恐怖に直面し冥界に下る。
 冥界には、かつて〈洪水〉で人類を救った洪積で不死となったウトナピシュティムがおり、その人がもつ〈不死の水〉を分けて貰う。だが蛇に邪魔をされてギルガメッシュは不死となることはかなわなかった。(人は限りある命の中で精一杯生きねばならぬのだ)と悟る。

 ──という物語です。ギリシャ神話や古事記に出てくる冥界下りがあったり、旧約聖書の洪水伝説に類似した内容を含んでいたりします。約七千年前ですよ、日本は縄文時代だったのですよ。そうです、あらゆる物語のルーツなのです。およそ1万年も続く名作なのです。

 〈隻眼の兎〉のイメージが固まったのは1990年代初めごろで、当時、とある市民絵画展会派に属しており、東京都立美術館にて、ずばり『隻眼の兎』と題した水彩画を発表し、奨励賞と会友の席をもらいました。(いまは会員で休会してますが……)隻眼の兎ギルガメッシュは私の中では、ここでキャラクター化されました。
 中編小説『隻眼の兎』は、十年くらい前に作った三つの短編小説の粗筋ノートが元になっています。第一がベースとなる『隻眼の兎』、第二がサイド・ストーリーとなる『しげさん』(物語のナレーターとなる少年のおじいさんの名前)、第三が敵役となる『月の王様』の三作です。これに『ギルガメッシュ叙事詩』のコンセプトを与えて今回の物語としたわけです。

更新日:2010-08-05 04:57:52

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