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3-4/教室で




「――で、ヒマだから日曜なのに学校に来ちゃったんですか。」
「ああ。ヒマだから来てしまった。どうしてくれる!」
「いや……知りませんけど。」

 昼頃、ヒマを持て余した俺は平日は毎日通っている高校の空き教室の片隅にいた。日曜は基本的に部活動のために解放されているので、帰宅部の俺でも怪しまれずに校内に這入ることが出来るのだ。もう少しセキュリティは強化したほうがいいような気はしないでもないが、その談義は今回は割愛だ。
 で、俺が学校に這入って来た気配を感じ取ったらしい華子は、ハリセンを抱えて教壇の上で突っ立っていた。それ自体はどうでもいいんだが、問題はその正面だ。教卓の上で、あろう事かミナミコアリクイの子供がもそもそしているのである。
 ……ヤベェ。超可愛ぇ。何あれ、本当に同じ地球の生き物なの?
 クリクリのお目めで「きゅー!」とか言われた日には俺はもうダメかも知れない。具体的に何がどうダメなのかは皆目見当もつかないが、ダメなものはダメだ。

「太郎さん、物凄くダメな顔してますよ。」
「ミナミコアリクイなら仕方ないだろ。」
「そ、そうなんですか?」
「宇宙の真理だ。」

 諸君。言っておくが俺は、可愛い動物が大好きだ。
 犬派? 猫派? バカだね。どっちも可愛い。可愛いはジャスティス。つまり両方を愛せる俺は、片方しか愛せない愚かな人間の二倍、人生を楽しく有意義に過ごせると言う事なのだよ。しかして俺の守備範囲は諸君らが思う一般的な人間像の軽く数倍はある。触って愛でたいとまでは思わなくとも、クラゲくらいなら普通に可愛いと思える。カタツムリとか、ラヴリーだよな。ハァハァ。あのニョキニョキしてる目玉とか、何のためのニョキニョキだよって考え始めたらもうそれだけでご飯三杯お代わり自由だね。
 そんな俺的ジャスティスランキングで現在ダントツの一位なのはヤマネだ。山に棲むネズミ。都会にはもう一匹も残ってないんじゃないかなぁ。しかしたった今、そのランキングに究極のダークホースが突っ込んできやがった。ミナミコアリクイだ。これは最早地球外生命体のレベルだ。まさかまだこの地上に、こんなにも可愛い生物が存在していたとは……!

「うおおおおッ……ヤマネ、違うんだ、俺は決して君を裏切るわけじゃない……!」
「ど、どうしたんですか太郎さん! 鼻血が! 滝のように!!」

 俺の脳内では、すっかりヤマネvsミナミコアリクイの構図が完成していた。
 や、やめろぉ、やめてくれぇ! 二匹同時に視界に入らないでくれぇ! お前たちの可愛さは、俺の目には刺激的過ぎる……! らめぇえ! 裸眼で直視したら目が潰れちゃうぅぅぅううう!
 ……以下、そんな下らない葛藤と時々華子のツッコミによるやり取りが、一時間ほど続いた。
 こんなことで3600秒も遊べる俺って、人生勝ち組だよな、多分。

「……落ち着きました?」
「ああ。もう大丈夫だ。鼻血も出尽くしたよ。」

 来た時よりだいぶやつれたような気もしますが、俺は元気です。

「……ところで華子。一ついいか?」
「私への質問はマネージャーを通してどうぞ。」
「マネージャー誰だよ。」
「きゅー!」
「くはぁ……! た、たまらんのう、たまらんのう……!!」
「まだ出るか鼻血!!」

 不意に手を上げて鳴くミナミコアリクイの子供。
 そうかそうか、お前がマネージャーかぁ、フフフ、なんだかもう世界なんてどうでもいいやぁ。

「華子、カメラを貸せ。撮る。」
「え、わ、私なんか撮ってどうする心算ですか……?」
「心霊写真なんかいらねぇよ!」

 でもどうせ撮るなら最高に怖い本物の心霊写真を撮って、どっかのテレビ局にでも送りつけてやりたいな。まぁ、それはさて置き。

「コアリクイを撮るに決まってるだろ! カメラを寄越せ!」
「胃カメラしかありませんけど。」
「何でだよ!! お前のケータイにはカメラ機能は無いのか!?」
「いえ、胃カメラ付きケータイなので。」
「デザインキモッ!!」

 華子がポケットから取り出した携帯電話には、何かニョロンとした物体がくっついていた。胃カメラか。飲むのか、それ。セルフで。

「カメラの映像はケータイの画面で見れますよ。」
「使い勝手は良さそうだが、携帯電話である必要性は無いな……。」

 くそう、なんで俺のケータイにはカメラがついてないんだ。こんな事なら変な意地を張らずに最新機種を買っておけばよかったぜ……。

更新日:2009-06-23 00:26:21

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はなこさんと/第三話「えいりあんと」