• 36 / 38 ページ


「そういうわけだから、太郎君。」

 俺の心の声も虚しく親父様は黙して語らず、代わりに月の王が極めてライトな感じに言った。

「娘をよろしく頼むよ。HAHAHA☆」

 いや、「HAHAHA☆」じゃねーだろ。なんだこの月の王。昼間から酒でも盛ったのか?
 娘をよろしく頼むって、それってつまりこの俺の膝の上に居座ってるミナミコアリクイの面倒を俺に見ろって事なのか? 因みに今はミナミコアリクイではなくコアリの姿である。ちょうど俺の顎の下にいい匂いのする長い髪が当たっている感じだ。成る程、猫が顎の下を撫でられるのはこんな気分なのか。とは思っても決して表面に出さず、クールで知性溢れる俺様は既に用意されていたお茶を一口嗜むと、必死に冷静さを装いながら関西弁で切り替えした。

「……なんでやねん。」

 親公認かよ。言っておくが、アレは単なるダルメシアンジョークなわけで、俺はまだロリコンなどと言う趣味に目覚める気はこれっぽっちも無いのであって――

「きゅー!」
「くはぁ……!」
「うおおっ?! 兄貴の鼻と耳から! 血が滝のようにッ!!」
「救いようのない変態ロリペド野郎め……。」

 ……ツッコミ精神旺盛な弟様と、辛辣な言葉を放つ妹様(小2)なのであった。
 だから! 「きゅー!」は拙いって! それだけはやっちゃいけないって! 何かの間違いが起きてしまうかも知れないから!

「……コアリ。三行で頼む。」
「うむ、よいだろう。一度しか言わぬぞ。
・コアリは時々地上に遊びに来ていい事になった。
・月と往復するのが面倒だからいっそ地上で生活する事になった。
・折角だからタローと一緒に暮らす事になった。←いまここ」

 ……。お前はもう地上の文化を吸収する必要はねぇよ……。

「そういうわけだからタロー、不束者だがよろしく頼むぞ。ハ、ハ、ハ。」

 ……その後、親父様からは「男なら責任を取れ」と言われ、地元警察からは「ちょっと署までいいかな」と腕を捉まれ、華子からは「私と言う悪霊がいながら……!」などと夜な夜な何度も金縛りに遭わされるなど、色々と悶着があったのだがそれはまた別のお話。






更新日:2009-06-23 02:09:48

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

はなこさんと/第三話「えいりあんと」