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3-7/執務室で



「都庁には誰にも知られていない極秘の一面が備わっている。それは、来るべき宇宙人との戦いに向けた、最終決戦兵器としての――だ。」

 コアリを先頭に、長い廊下を駆け抜ける。
 都庁の建物の中の、何処にこんな一直線の廊下が収まっているのだろうか? 空間が歪んでいるとしか思えないような通路を抜けた先に、都庁とは明らかに用途が異なる一室があった。司令室だ。司令室で間違いない。この部屋に与えられるべき名前のうち、他に最も相応しい名前はない。青系統のランプや、巨大スクリーンにレーダーが表示され、何かの点が明滅しているこの部屋を指して誰が会議室だとのたまうのか。
 ……などと思ってたら、自動ドアのところに“執務室”と書かれた小さな看板がついていた。何を執務する部屋だよ、と言う突っ込みは今更野暮というものだ。あとで司令室と書き直しておこう。

「……だが、これを使ったところでムーンライトに勝てる保証は無い。タロー。それでもお前は、戦うと言うのか……?」
「任されたんだぜ? あの岩原都知事に。この大都市東京を。世界の未来を。これで熱くならねぇ男なんて嘘だぜ。」
「タロー……。」

 大丈夫。岩原はきっと無事だ。鎌井さんが何とかしてくれているに決まっている。そう言い聞かせて此処まで走ってきた。後は、コアリが都庁を――起動するだけだった。

「あのアカシマと言う男は、これで月の侵略兵器を殲滅して、その力を世界に誇示すると言ったが……贔屓目無しに、性能差を客観的に見て、勝算は……5%も無い……。それでもお前は、戦えるのか、タロー……。」
「二度は言わねぇ。」
「………………。」

 ――不思議な男だ。
 月の姫である自分に少しの遠慮も無く付き合えたことこそ無知の成せる業であったろうが、それとは無関係に、彼には不思議な魅力があった。
 退屈しないのだ。彼と居ると。彼がそこに居るだけで、言葉では言い表せない心地よさが生まれるのだ。

「タロー。……死ぬ事は、許さんからな。」
「………………。」

 自分の我侭のために彼を危険に巻き込んだ事は、どれだけ謝罪の言葉を並べても決して許されることでは無いだろう。なのに彼は少しも嫌な顔をする事無く、こうして手を貸してくれている。
 何故だ?
 華子は言っていた。タローなら必ず黙って協力してくれる、と。
 ……何故なんだ?
 どうして、見ず知らずの自分にも、タローはこんなにも優しくしてくれるのだ。
 ……その答えを、まだ聞いていないのに、死ぬ事は絶対に許せるものか。絶対に死なせない。たとえ、代わりに自分が死ぬ事になろうとも――。

更新日:2009-06-23 01:19:33

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はなこさんと/第三話「えいりあんと」