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3-6/都庁へ



 率直な話が、要は時間切れだったと言う事だ。
 コアリは、一ヶ月前――俺がメリーさんの騒ぎに巻き込まれたあの日の少し前から華子の許で身を隠し、自由気ままな生活を送っていたらしい。その頃からずっと、既にこの国のトップと密かな関係を持っていたコアリの両親が政府に圧力を掛け、コアリの捜索をさせていたと言うのだが……。

「――都庁?」
「此処から一番近いのは、イワハラが居る都庁だ。イワハラならコアリのことも理解できる。問題はすぐに解決するから!」
「イワハラって……岩原都知事か。」

 都庁までは電車で十分も掛からない。しかし突然の宇宙人の襲撃を受け大混乱に陥った都市の交通機関は完全に麻痺していたため、俺は自転車の後ろにコアリを乗せて只今全力でペダルを踏み込んでいる真っ最中であった。
 中学の時、東京遠足のためにバスで行った事がある。道はだいたい覚えている。車を乗り捨てて逃げ出す人間の群れを掻い潜り、俺は一直線に都庁を目指した。
 あとどれくらいで都庁に辿り着くだろうか?
 そんな事を思った時、俺のポケットに入っている携帯電話が振動した。

「コアリ! 電話に出てくれ!」

 漠然とした予感であったが、相手はきっと華子か、それに類する何かであろうと思われた。
 コアリは振り落とされないように俺の腰に抱きついたまま、器用に携帯電話を取り出してパカッと開く。

「もしもし。タローなら今、電話に出られる状況にないぞ。」
「あら? そうなの。いいわ、別に。“電話さえ繋がれば十分だから”――」
「!?」

 ヒトならざる声。この世の全ての声紋認証システムをブチ破る、脳髄に響くその声を初めて耳にしたコアリは、思わず俺のケータイを投げ捨てそうになる。頼むから、投げないでくれよ……。いや、実際俺も初めて聴いた時は投げ捨てたけど。
 既に通話が終わっているにも関わらず、コアリは携帯電話の画面を凝視したまま硬直していた。しかし、すぐに背後に何かの気配を感じ、恐る恐る振り返る。

「ひっ……!」

 掠れた悲鳴が聴こえた。
 コアリの背後には、自転車にピッタリくっついて来る鎌を担いだ青年の姿があった。

「ぐぇ……!」

 恐怖に慄き、俺の腰を締め付けるコアリ。ただでさえ自転車かっ飛ばして吐きそうなくらいだと言うのに、なんて事をしやがるんだ。どうせやるなら、せめてもう少し胸が成長してからにして欲し――

「余計なお世話だ!」

 ドズン! と鈍い音がして、コアリの手刀が俺の脇腹に食い込んだ。
 死ぬ。これは死ぬ。宇宙人の腕力、マジパネェッス。

「ぶほげらばァ!!」
「きゃーーー!! た、タロー! 耳とか鼻から! 血が滝のようにッ!!」
「ひ、ヒトのモノローグを勝手に読んだ挙句に、俺を殺しかねない一撃を放つな……コアリ……。」
「ご、ごめん! 本当にごめん!」

 ――そんな賑やかなやり取りを一通り見物した後、鎌を持った青年は笑って口を挟んだ。

「相変わらず、誰と一緒の時でも楽しそうですね、太郎君。」
「退屈しない日曜日だぜ。そろそろ魚介一家のアニメが始まる頃だから、さっさと終わらせて帰りたいな。」

 紹介しよう。カマイタチの鎌井さんだ。人間ではなく、華子と同じ側の存在である。ついでに言うと、今朝俺に呪いのチェーンメールを仕掛けたメリーさんの“コレ”だ。え? コレって何だって? あぁそうか、活字の世界だから小指を立てても伝わらないのか。

更新日:2009-06-23 01:00:06

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はなこさんと/第三話「えいりあんと」