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闇からの誘い・・・風音奇譚 第一話





今夜は裏山の竹藪がやけに騒がしい。

竹のしなりに混じり 何やら囁くような声らしきものが聞こえる。




「死なはったら よろしいのに」




・・・確かに聞こえた。

何とも残酷な言葉。
決して強く言い放った訳ではないが、
京なまりのせいもあって、何か含むものでもあるように聞こえた。


枕元に気配を感じ体を起こそうとしたが、指先さえ動かす事が出来ない。
あの声の主でない事を切に願った。

何者かが顔を覗き込むように近づいてくる。
額に触れたものは、ヒンヤリとした指。
喉は渇き、唾を呑み込む事すら出来ない。
強い風が、この古い家の窓枠を揺らすほど吹いている。
体から、意識が吸い取られていくような感覚を覚え、不安になった。
このままでは取り込まれてしまう。
そう思った瞬間、またあの声が聞こえた。

「かまへんよ」

かまへん?なにをかまわないと言ってる?

「声・・・出ますやろ。喋りはったらよろしいのに」
「・・・・・お前は・・・誰だ・・・俺に用でもあるのか?」

擦れてはいたが、どうにか声は出るようだ。

「変な事を言わはりますな。あんさんが呼ばはりましたやん」
「寝込みを襲うようなヤツを俺が呼ぶ訳が無いだろ!」
「・・・・・おや、えらい別嬪さんが来はりましたわ」

別嬪さん?里吏か?

「その人の側から離れなさい」

いつの間にか足元の側に立っていた里吏が、一方向に向かって強い口調で怒鳴る。

「あらあら、そないに怖い顔せんでも。ベンガラはん、今日のところは・・・いなして貰います」
「それがいいな。寝込みを襲う時は、もう少し上手にやるんだな」
「へえ。そうさせて貰います」

そう言って、そいつは消えた。

「ヤスさん、大丈夫でしたか?」
「あぁ、大した事ない」

起き上がると、体の節々が痛んだ。

「あれは誰なんです?」
「そんなの知らんよ。顔も見てない」
「まさか、あの女狐の仲間でしょうか」
「・・・あんな雑魚とは比べ物にならん・・・親分が直々に出て来るとは俺も有名になったもんだな」
「親分!・・・ヤスさん、笑い事じゃないです!それに笑顔の中にも鋭い何かがありました。瞳が・・・」
「瞳?」
「オッドアイ」
「目の色が違うのか」
「鳶色とコバルトブルー。どうかしました?」

オッドアイ・・・・・記憶の中にある。
確かに俺は過去に・・・いや、前世で会っている。


更新日:2009-06-19 13:54:40

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