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闇からの誘い・・・風音奇譚 プロローグ

ベンガラの主人


戦前から続く骨董屋「やまさき」の三代目は、小さな時から霊感があると近所で評判になり、今ではそれを生業として生計を立てていた。

山﨑の住んでいるこの付近は、昔ながらの格子戸のある家々が連なり、まるで一世紀前にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える町並みだった。
豆腐屋のラッパの音、金魚売りの大きな掛け声も健在な、ちょっとノスタルジックな気分に浸れるこの通り。
そこに30数年、山﨑は独身貴族さながらの生活を、この趣のある紅殻格子の自宅で過ごしている。
小さい頃に病気で母を亡くし、祖父と父の三人で住んでいたが祖父も亡くなり、それを機に家の呪縛から解き放たれたと、父は家を出てしまった。
「10年経ったら帰ってくる」そう言い残して。

ご近所さんから『ベンガラさん』と呼ばれている山﨑は、小さな頃から人間には見える筈の無いものが見えていた。
母親の病気が発覚する前から山﨑には母親の体に巣食っているどす黒いモノが見えていたのだ。
『母は死んでしまう』そう感じた山﨑は、一週間食事が喉を通らず痩せ細っていった。
小学校に上がったばかりの山﨑には耐え難いものだった。
けれど、その頃から山﨑には助けてくれる精霊がいつも傍にいた。

その精霊の名は【里吏(さとり)】
主人に仕える下僕のように片時も離れず山﨑が成長するまで見守っていた。
今では、山﨑が呼ぶと直ぐさま飛んでくる。

「里吏!いるか?」
「呼びました?」
「あいつが来る。追い返してくれ」
「・・・・・もう遅いようですよ」

更新日:2009-06-19 13:36:14

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