• 5 / 8 ページ

挿絵 395*296

 バスは浄因寺の駐車場に到着し、いよいよ関東の高野山に入山する。
 駐車場の先から石段が始まり、老杉が視界を遮るほどに鬱蒼と茂っている。静寂の中、365段あるという石段を登り始める。

 石段の周囲には、露出した岩肌や山肌を借景として風雪に耐えてきた石仏が、様々な表情で見守ってくれていた。境内には苔むした石仏が3万3千体あるらしい。参道の石段は斜面を縫うようにして徐々に標高を上げていった。歴史を感じさせる石垣などを眼にすると、石仏がなければ山城の跡かとさえ思えてくる。僧侶の姿より戦国武将が石段を駆け上る姿の方が想像しやすい。

 この日は浅草を発つときから快晴で、その時点ですでに気温は30度を超えているような暑い日だった。山中とはいえ、関東平野が本格的な山岳地帯に入る手前という場所だけに、よほど標高が高くない限り涼しさを望むことはできない。
 この行道山は山頂でも標高442メートル程度だから、高原の清々しさとは無縁である。体中から汗が噴出し、吐く息まで熱を帯びているようだ。しかし不思議と苦痛と感じないのが、この浄因寺境内の雰囲気なのか、それとも非日常という空間なのか、そこまではわからない。

更新日:2008-12-05 15:59:52

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook