官能小説

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第2章 到着

「お客さん、終点ですよ」
 運転手に肩を掴まれ、ようやく我に返った。
「あ、すみません。降ります。どうやら眠ってしまったようで」
 すでに乗客は全員降りた後だった。
 車内には見るからに口数の少なそうな運転手、それに私だけが
取り残されている。
 運賃を支払い、まずは目的地に降り立った。

「あれは夢だったのか? いや、もう考えても詮無いことだ。
夢だろうが幻覚だろうが、この先を左右されるものでは無いと
思いたい。それに今は腹が減った。昼食をとって、教えてもらった
図書館を目指すとしようか」
 恐ろしく静かな町だった。今朝、発った町もそうだったが町全体に
活気というものを感じられない。
(若者は皆、出稼ぎにでも出ているのだろうか?)
「それに本当に、こんな小さな町に図書館なんてものが存在するの
だろうか? 建物はどれも傷んではいないようだが…この辺りは戦火を
免れたのか…?」

(もし空襲があったとしたら、こんな辺境の地は大抵修復が遅れるだろう
…あるいは、やはり攻撃の対象にすらならなかったって事か)
 石畳のような作りの通りを歩き暫らくして、ふと私は何かを思い出した
ように立ち止まった。
「今回の旅行は今までと何か違う…その原因は、この景色の中に
あるような気がするが、気のせいか? それとも単なる思い過ごし
なのだろうか?」
 
 再び歩き出した。答えは出ない。ずっとそうだ。
 新たな疑問、不安、そして恐怖にも似たもの…それが何なのか
 分からないまま、時間だけが無情に流れていく。
(今までは考えたことも無かったけれど、今回の旅で得るものが
無かったとしたら私はこんな所まで一体何をしに来たのか、
深い後悔だけが残りそうだ)
 過去には一度も無かった苦悩を背負いながら、たまたま見つけた
小さな食堂へと入った。

 食事を終え、老夫婦に目的の図書館の場所を尋ねた。
「ええ、ありますとも。この2ブロック先です。大きな建物ですから、
すぐに見つかるでしょう。通りに危ないものなど何もありませんが、
十分用心して行きなされ」
 妙に気になる忠告の仕方だった。確かに通りは人通りも少なく、
車などの行き来もない、ましてや夜盗の類が出そうな気配も無い。
(何も無いけれど注意しろとは、一体どういうことか…?)
 地域によって人への接し方もそれぞれなのだろう、そう自分に
言い聞かせ店を後にした。

 目的の建物はすぐに見つかった。
「Emma’s library? 図書館…なのか? 閉館したのでは
なかったのか? まあ、いい。とりあえず中に入ってみるとしよう」
 図書館のプレートのままになっている建物を見上げ、一人呟いた。
「それにしてもエマとは? 何故、女の名前なんだ? 普通、地名か
町名だと思うが…」
 外見が図書館のイメージとは若干違いも見受けられるが、特に際立って
おかしなところが、あるというわけではない。
 
 中に入ると受付らしきものが存在し、館内には所狭しと本棚が
並んでいる。
 だが、どうした事だろう、館内には誰もいない。
 天井の蛍光灯の質素な配置が辛うじて、この場所が過去、公共の
場所だったことを演出してはいる。
「まさか休憩時間という事はないだろうな」
 
 時計は正午を少し回ったところだ。
 昼食中だという可能性も考えられる。
 仕方なく棚に貼られたプレートを頼りに、目当ての本が無いか
探してみる。
 『歴史』と『神話』の棚が隣り同士だったのには笑った。
(しかし、特に興味を惹くものはないな…)
 
 数冊、手にとって見たもののタイトルを確認しては、すぐに元の場所に戻した。
(無駄足だったか…?)

更新日:2015-09-17 17:16:24

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