官能小説

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第4章 終幕~誘(いざな)い

 どれ程の時間が経過したのだろう…?
 私の身体は、なんと水溶液の中で生き長らえていた。 
(暗い…静かだ…何も見えない…何も聞こえない…)
 あれだけ騒いでいた犬たちの吠える声も、今は全く聞こえない。
 なぜか着ていた衣類は無く裸になっていた。管を通過する間に
剥ぎ取られたのか、あるいはこの液に溶けてしまったのか…。
 なす術も無くただじっと胎児のように、私は身体を丸めている。
(このまま死ぬのだろうか?…別に大して…思い残すこともない…か)

 目を閉じ、膝を抱えて人間の、いや自分の業について考えてみた…。
(良い事も悪い事もしていない気がする。それでもこれが宿命と
いうなら、それでも構わない 
 何故こんなことになったのか、ついに謎は解けぬままだが…)
 体内に浸透しているであろう溶液は暖かく心を落ち着かせ、
アルコールさえも分解しているようだった。

(なんていい気分なんだ。まるで自分から求めてここへ来たかのようだ…
あるいは帰ってきたのか? 遥かな大昔、私はここに、いたのかも
しれないな…)
(生への渇望と恐れが時には羊水をも懐かしむ、という事だろうか。
なんとも言えぬ気分…自らが望んで子宮回帰を促している?)
(だがもう、何かを考える事すら無意味にも思えてきた…脳内にまで
液が浸透したのかもしれないな)

(別にいい…もう、どうでもいいことだ…今は…とても眠い…もし眠った
まま死ねるというのなら、これほど幸せなことはない…それもいい)
 私は機械の電源を切るように、思考すること自体、止められるなら
止めてみたいと願った。五感の機能をすべて停止させたかった。
 だが身体は、その後もユラユラとした浮遊感の中で、ゆっくりと
底辺へと落ちていく様だけは感じ取れた。

 さらに長い時間が経過したようだ…私は目を開け、どこまでが現実で
どこからが夢だったのか懸命に思い出そうとした。
 無力感の中で最初に確認したことは、ここがあのホテルの一室であると
いうことだ。
 そして次に確認したことは驚くべきことに自分の身体が自分の物では、
なくなっていたという事だった!
(こ、これは…一体、どうしたことだ。これは私の身体ではない! 
これは女の身体だ)
 
 裸体を見下ろせば、まず豊満な両胸が視界に真っ先に入ってきた。
 さらに視線を下ろせば、男性自身を象徴する生殖器も消えている。
(何故、私の身体が女に変わったのだ? も、もしや顔も…なのか?)
 私は立ち上がり、部屋に鏡が無いことを知ると窓際へ移動し、
静かにブラインドを持ち上げガラスに姿を映した。
「ああ、やはり顔も…それに声まで…」
 女性特有の透き通るような高音、しかしそれ以上に私を驚かせたのは
顔立ちだった。

「こ、この顔…? バスの中で見た顔…? いや、違う。似てはいるが
違う。これは紛れもなく私の顔だ」
 
 バスの中で見た母親似の幻影を思い出した。だが今、ガラスに映っ
ている顔は母親の遺伝子を受け継ぎながらも、僅かに男の頃の
自分の面影をも忍ばせている。
「こ、これが…私の顔…」
 
 夜の気温ですっかり冷たくなってしまったガラスに写る姿に、
私は魅入っていた。 
 室内は決して暖かいとはいえないが、それでも裸の姿でも寒いとは
思わなかった。
 それは今だ漂い続ける、この強い花の匂いで酔わせているせいかも
しれない。
 
 体内に染み渡った液体が私の身体をこのように変容させたのか、
あるいはこの麻薬のような匂いによって幻覚を見させられているのか、
とにかく一旦、窓際から離れベッドへと身を移す。

更新日:2015-09-18 17:55:25

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