- 1 / 16 ページ
第1章 旅立ち
秋、大学が休みに入ると私はすぐさま荷物をまとめてイギリスへ
飛んだ。
私の名前はスチュアート・F・コーエン、29歳、独身である。
現在はマサチューセッツの大学で教鞭を振っている身だ。
専門は西洋史。決して給料は良い方ではないが他に特技が
あるわけでもなく、担当教科を増やす事もなく現在に至っている。
大きな戦争が終結してから早20年以上が経つ。
町はほのかに活気を取り戻し、市民は喧騒の中にも確実に笑顔を
取り戻した。
生まれはアーカムという小さな片田舎である。
幸いなことに、この国では敵の侵入を許すことはなかったが、
それでも町の至る所で暴動やテロが相次いでいた。
幼い私はある夜、突然のサイレンで起こされ着の身、着のまま
両親と共に外に飛び出した。
ただただ、訳も分からず手を引かれるまま夢中で走り続けた。
途中、幾つかの家では火の手も上がっており、泣き声、叫び声、
罵声などが入り混じって私は耳を塞ぎたくなるのを懸命に
堪(こら)えた。
町の中心まで来た時に大きなトラックが一台停まっており、
荷台に乗った多くの難民が大声で「あと一人!あと一人!」と
叫んでいたのを鮮明に覚えている。
両親は私を抱き上げ「この子をお願いします」と言って私を
荷台に乗せた。
大男の太い腕に引き上げられた私は、すぐに振り返って泣きながら
両親の名を呼んだ。
だが無常にもトラックは走り始め、闇の中で蠢く一塊の群衆の中に、
両親を見つけることは出来なかった。
数日後、私は安全な区域に移されると両親の死を知らされた。
その後は孤児院に預けられたが、どの子供達も境遇は似たような
ものだった。
だが皆、そのような環境の中でも落ち込む事も無く懸命に勉学に
勤しんだ。
院を出ればやがて行き場を失い、その日の食べるものにも困る。
そう、先生達の忠告や教育は私たち子供にとっても、それがいかに
大切なことかを理解していたのだ。
誰もが皆、必死になって知識を身に付け己の将来に託したのだった。
私は図書室にある多くの本の中でも、とりわけ歴史書を読むのが
好きだった。
これから始まる未来よりも、私の知らない過去に何があったのか
興味があった。
そんなわけで何とか教師という職業にありつくことが出来たのだ。
これは私にとって大変、幸福なことである。
お金を貰って生徒に好きな歴史を教えることが出来、さらには
無料で学内の図書室で本を読むことが出来るのだから。
とはいえ、数年もすれば学内はおろか町の図書館でさえ、私の
興味を惹く物は読みつくしてしまっていた。
飛んだ。
私の名前はスチュアート・F・コーエン、29歳、独身である。
現在はマサチューセッツの大学で教鞭を振っている身だ。
専門は西洋史。決して給料は良い方ではないが他に特技が
あるわけでもなく、担当教科を増やす事もなく現在に至っている。
大きな戦争が終結してから早20年以上が経つ。
町はほのかに活気を取り戻し、市民は喧騒の中にも確実に笑顔を
取り戻した。
生まれはアーカムという小さな片田舎である。
幸いなことに、この国では敵の侵入を許すことはなかったが、
それでも町の至る所で暴動やテロが相次いでいた。
幼い私はある夜、突然のサイレンで起こされ着の身、着のまま
両親と共に外に飛び出した。
ただただ、訳も分からず手を引かれるまま夢中で走り続けた。
途中、幾つかの家では火の手も上がっており、泣き声、叫び声、
罵声などが入り混じって私は耳を塞ぎたくなるのを懸命に
堪(こら)えた。
町の中心まで来た時に大きなトラックが一台停まっており、
荷台に乗った多くの難民が大声で「あと一人!あと一人!」と
叫んでいたのを鮮明に覚えている。
両親は私を抱き上げ「この子をお願いします」と言って私を
荷台に乗せた。
大男の太い腕に引き上げられた私は、すぐに振り返って泣きながら
両親の名を呼んだ。
だが無常にもトラックは走り始め、闇の中で蠢く一塊の群衆の中に、
両親を見つけることは出来なかった。
数日後、私は安全な区域に移されると両親の死を知らされた。
その後は孤児院に預けられたが、どの子供達も境遇は似たような
ものだった。
だが皆、そのような環境の中でも落ち込む事も無く懸命に勉学に
勤しんだ。
院を出ればやがて行き場を失い、その日の食べるものにも困る。
そう、先生達の忠告や教育は私たち子供にとっても、それがいかに
大切なことかを理解していたのだ。
誰もが皆、必死になって知識を身に付け己の将来に託したのだった。
私は図書室にある多くの本の中でも、とりわけ歴史書を読むのが
好きだった。
これから始まる未来よりも、私の知らない過去に何があったのか
興味があった。
そんなわけで何とか教師という職業にありつくことが出来たのだ。
これは私にとって大変、幸福なことである。
お金を貰って生徒に好きな歴史を教えることが出来、さらには
無料で学内の図書室で本を読むことが出来るのだから。
とはいえ、数年もすれば学内はおろか町の図書館でさえ、私の
興味を惹く物は読みつくしてしまっていた。
更新日:2015-09-17 17:02:21