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夜、走るとき…

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次の話は怖い、というより不思議な体験です。
子供の頃、私は九州の片田舎に預けられ育ちました。
本当に山の中で、道は舗装などしているわけも無く、砂利道でもなく、
ただただ延々と凸凹道が続いています。
周りは山と田んぼと畑しかありません。私達は部落と呼ばれる集落の
ような場所に居を構え住んでいたのです。

こんな自然に囲まれた場所でしたが、私は身体を動かすのが好きでは
ありませんでした。
休みの日も外には出ず、家でゴロゴロとテレビを見たり漫画を読んで
いたと思います。

そんな私ですが唯一、得意なスポーツがありました。それはマラソン
です。ウチの高校では年に一度、全校生徒が40キロ(女子は20キロ)
を走らされます。
簡単に40キロ、20キロといっても、そこは山道。テレビでやって
いるような平坦な道じゃありません。

休んだりサボったりすれば体育教師の鉄拳が待っています。
当時は、まだ制裁だの虐待だのという言葉は無い頃でした。
先生の愛の鞭は容赦なく飛んできます。
私は走るのが好きでしたが、苦手な人は苦しんだようです。

それでも私は大会が近づく頃には、走り込みをやって身体を鍛えて
いたのです。
夜中、といっても7時頃ですが辺りは真っ暗。街灯なんてありませんし、
車も人も全くといっていい程、通りません。
バスも6時が最終だと思います。
夕食を食べ、小さなラジオにイヤホンを付けて外に飛び出します。

上を見上げれば降るような星空、夏なら幻想的な蛍の舞いも見えた
でしょう。
でも残念ながら、大会は決まって12月です。
ジャージ姿に首にはタオルを巻いて走ります。

最初の不思議な体験は不思議というより単に、こじつけかもしれません。
長い尾を引く流れ星を見たんです。
流れ星に願いを、なんてロマンチックな話の反面、流れ星を見た時は
身近で誰か死んだという事を知らせている。
こんな話を聞いたことはありませんか?

特に気にもしていませんでしたが、翌日学校に行ったら進路指導の
先生が亡くなったと聞かされました。
(うわー、偶然てすごいなー)なんて妙な感想を持ったものでした。

次も怖い話しではありません。
いつものように走っていたら、前から同じように走ってくる足音が
聞こえました。
(あ、自分以外にも夜、走ってる人がいるんだ)と思いました。
足音が近づいて目の前まで来ると、初めて顔が見えます。
ここで亡くなった先生だったら『怖い話』としては完璧なんでしょうが
残念ながら見知らぬ人でした。

先に書いたように、街灯などの明かりは一切無いので月明かり、
もしくは月が隠れた時は星明りに頼るのみです。
でも暗くて、道が分からないとか、つまずきそうになったとか、そういう
事は無かったです。
信じられないかもしれませんが、月や星の明かりって頼りになるんです。

一つの山を囲うように長い道のりをグルリと一周します。距離は2キロ位
じゃないかと思います。
途中、トンネルがあるんですが、ここだけは真っ暗です。先の出口以外は
何も見えません。
前方の半円を目指して走るのみです。

トンネルを出たら前から人が走ってきたので、びっくりしました。
でも本当に腰を抜かすほど驚いたのは、その人はさっき、すれ違った人
だったんです。
10分くらい前にすれ違ったばかりなので、もう一周してるわけは
ないのです。
もちろん近道などはありません。
私を脅かすために車を使ったなどとは考えられません。

でも、いいんです。双子だったかもしれませんし。
こんな田舎では双子などいると、すぐに話題になり有名人です。
(双子じゃないかも…)
でも、いいんです。びっくりしただけで怖い思いをしたわけじゃ
ありませんし。

不思議な体験は、実はこの数日後に起こりました。

更新日:2009-06-10 14:29:36

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