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*** Chapter 06 王宮府アドイ ***

 朝陽を照り返して白い外衣はロウの身体に同化した。両手を広げると外衣の裾が二つに割れて大きく広がって翼を形作った。ロウは二度三度ゆっくりと羽ばたくと、展望台から真っ青な空の中へ飛び上がった。
 眼下には目覚めたばかりの王宮府アドイが浩々と広がった。
 慣れた動きで上昇気流を捕まえながらゆったりと都市の上空を滑空し、飛翔(ひしょう)者専用誘導路に向かった。昇ったばかりの陽光が眩しかった。耳元で冷たい風が唸りを上げている。
 朝の出勤時間帯で空中の飛翔者専用誘導路は混みあっていた。ロウのように自分の力だけで飛翔する者は少ないが、高台に暮らすほとんどの人たちは、飛翔補助装置を着けて空から出勤した。
 もちろん大多数の通勤者たちは空を飛ばずに、公共性が高い乗合飛翔機を利用した。
 住宅街と中心地を結ぶ乗合飛翔機は定時間に発着して、満員の通勤者たちをアドイに運んだ。
 小型の数十人乗りの乗合飛翔機は、住宅街の比較的大きな通りを縫うように地面すれすれを滑空して走り、停留所ごとで通勤客を乗せ、そのまま街道を中心部に向かう普通と、定点から定点へ空中に浮かび上がる急行に区別された。
 都市中心部には自家用飛翔機の乗り入れが禁止されていて、周辺部から中心部に通勤する人達は飛翔者専用誘導路か、乗合飛翔機が十機程連結された連絡滑翔(かっしょう)線を利用した。
 連絡滑翔線は固定された専用の誘導路を都市から周辺部に展開させて、要所要所に駅を設けていた。自ずと駅の周囲には人が集まり繁華街を形成した。
 長距離を移動する人達は込み合う街道を自家用飛翔機で走り、乗り入れ禁止区域外に飛翔機を預けて、乗合飛翔機や連絡滑翔線に乗り換えるか、時間は多少かかるが縦横に張り巡らされた自動遊歩道に乗った。自動遊歩道の中には椅子が設えられ、動かない歩行路を歩くよりは、座ったままで早く目的地に着けた。
 大型の飛翔機を数十両連結して高速で都市を結ぶ都市間連絡滑翔線は、専用の空中誘導路を浮いて走り、人や物流の大動脈となっていた。


更新日:2008-12-03 02:51:21

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