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 どうにもできない悔しさが心に満ちていた。
 口の中に血の味が残っている。
 目は覚めたが、暫くは起きあがれなかった。
 いつの間にか、男の足許に小枝が堆(うずたか)く積まれていた。
「いつ、小枝を集めたのだ」
「この小枝は、おまえの夢の痕(あと)だ」
 黒衣の男が小枝を焚き火にくべた。炎が大きく燃え上がった。
 きらきら光る火の粉が薄い煙に鏤(ちりば)められて、梢の先まで立ちのぼった。
「人は夢を見て、私に語る。語り終えた記憶は枯れ枝となって身体を温めてくれる。おまえの生命(いのち)はそうやって少しずつ浄化されていく」

更新日:2008-12-03 01:33:08

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