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9 山のあなたは意外と近い

週末、佐和ちゃんが、
貸してあげてた漫画を返す、
そのあと車で送ってくれる、というので、
鶴見・佐和夫妻の巣へお邪魔した。


「おー、いけっちじゃありませんか。
よくきたね。
あがんなさい。」


当の佐和ちゃんはいなかったが、
ツルさんがいた。

私服のツルさんは会社にいるときと違って
のほほーんとしたおぼっちゃまのようでもあり、
落ち着いたカフェの店長みたいでもある。
シンプルなデニムのエプロンが似合ったりして、
休日はくつろぎの人なのだった。

俺を招き入れると、
コーヒーをおとしてくれた。
佐和ちゃんは、おかずを買ってから
もう少ししたらかえってくると思う、
とのことだった。


「いけっちはたしか、浅めのマイルド。」


といって、
飲みやすい軽いコーヒーを出してくれた。
ツルさんはコーヒーマニアだ。
すごくおいしかった。


「…佐和ちゃんと、その後うまくいってる?
ツルさん。」


たずねると、ツルさんは微笑んだ。


「…おかげさまで。」

「…二人暮らしが上手く行く秘訣ってなに?」


俺がきくと、
ツルさんは目を上げた。


「お?なんですかいけっち、
ついに同棲ですか?」


「…ではないんだけどさ、
まあ、近くに住もうかと思って。
少し新しいことしないと
マンネリ化しちゃうし。」


ツルさんはうんうん、とうなづいた。


「俺はそれ賛成。

何かを二人でやるっていうイベントは、
ふたりをそれぞれに育てる。
佐和んちにくっついてって
ホントそれ感じたよ。


…うまくいく秘訣ねぇ、
そうだな、
俺んとこの場合は、
困ったとき、友達に弱音もらすことかな。

そしたら俺の友達は、
ありえないくらいいいヤツらで
必ずカップルで手分けして
いろいろやって助けてくれるから。」


俺は思わず笑った。


「そうだね!
俺もそうするよ。
ツルさん、たすけてね!」


「ああ、いつでもOK。
出来る限りのことするよ。」


ツルさんは俺の顔を見て笑い返した。



更新日:2009-06-03 11:45:57

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