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1 好きと言えずに初恋は

初恋は、幼稚園のあべくんだった。

阿部君なのか安倍君なのか
今となっては知るすべもない。

あべくんは
小太りした背の大きい子だった。

そういう子にありがちな
ボス指向もなく、
生き物が好きで、
がっはっはと豪快に笑うような
明るくて鷹揚な男の子だった。

…今思い出してもパーフェクトな男だ。

あべくんは幼稚園生なりに
同じ組のミカちゃんに恋していて
しかもふられた。

俺はそのとき
不思議なことに
たいそう悲しかった。

たぶん、あべくんが好きだったから
あべくんの気持ちになってしまったのだ。

だからといって
俺がどうにかできる問題でもなかった。

俺はあべくんを
物陰からそっと見るくらいが関の山で
友達ですらなかったのだ。


…幼き日の
甘くもほろ苦い思い出だった。


更新日:2009-05-31 00:42:24

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