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昔、この辺りは堂山って呼ばれていました

 昔、この辺りは堂山って呼ばれていました。
 この丘陵の一帯には、今みなさんのいらっしゃる西至寺とか、お隣の陵厳寺、それ以外にもいくつかのお寺や、小さなお堂があるからです。
 そんなところだったので、昔はとても寂しい場所だったそうです。今はこうして家ばかり建っているから不思議ですけどね。
 だから、狐や狸が住んでいて、中には人間をからかうものもいました。
 いつの頃から、悪戯好きの狐はおこんの名で呼ばれるようになりました。
 ある時、堂山に兄弟の猟師がやってきました。
「堂山にはおこん狐という、悪さする狐がいるときいたんで退治にきた」
 兄の猟師は、弟と山に入っていきました。
 いつの間にか霧が出てきて、こりゃ狐にだまされていると兄は考えました。
「気をつけろ」
 既に弟の姿は霧に紛れて見えなくなっていました。
 兄は息を深くはいて、眉に唾をつけると、じっと霧を見つめました。
 これは眉唾といって、魔物に惑わされた時のおまじないなのですよ。
 兄が二度、三度目をしばたかせると、霧なんて最初から無かったみたいに、回りが見えてきました。
 霧は晴れました。しかし、弟もいなくなってしまいました。
 兄は弟の事が心配でしたが、狐を退治すればいいと、山道を一人歩き始めました。
 暫くすると、向こうから女の子が一人やってきます。
 この辺りの子なら誰でも着てそうな野良着で、不思議はありません。
 でも、兄は長年の勘でそれが狐だってすぐ分かりました。
 なんて、格好よくいいたいところですが、その狐はどうも化けるのが下手で、ふさふさのしっぽが背中越しにちらちら見えていたのです。
 兄が噂ほど狡賢い狐でもないようだって思っていると、女の子は
「よかったら食べれ」
 そういってお萩を差し出してきました。兄は、ああ、これは馬糞に違いないと思って、
「腹減ってねえからお前食え」
 女の子は青くなるし、尻尾はだらっと下がってしまったから、きっと食べられないものだったのでしょう。
「まさかお前は狐で、そりゃ馬のクソなんかじゃねえよな。そうなら、こいつがズドンとなるとこなんだが」
 そういって女の子に向かって、鉄砲を大げさに振ります。 
「今食べるよ」
 女の子は一口入れると、青かった顔は赤くなり黄色くなり、ついには口から吐き出しました。
「大丈夫がお前?」
 にやにやしながら尋ねると、
「なんか痛んでいたみたいだ。あんたが食べんでよかった」
 兄は頷いて
「そら災難だな」
「じゃあな」
 女の子は兄に背を向けていこうとすると
「わしはこの辺りは不慣れでな、少し案内してくれんか」
 女の子は首を振った。
「とんでもねえ」
 そういってピューっといなくなってしまいました。
 兄は一頻り大声で笑うと、また山道を進みはじめました。
 暫く歩いていると向こうから弟がやってきました。
 兄は上機嫌で、
「狐をおっぱらってやったぞ」
 でもね、弟は、むっつりとした顔のまま、黙って銃を兄に向けました。
「どうしたんだお前」
「お前、狐の臭いがする。うまく兄者に化けたつもりだろうがそうはいかねえ」
 兄は声を大きくして、
「それはさっきまで狐が化けた娘といたからだ」
「嘘つくな。兄者は狐だと分かれば、そのまま一緒にいる人じゃねえ。それにな」
 弟は笑い、
「しっぽがでてやがるぞ」
 兄は尻を触るとそこにはふさふさの尻尾が。あの女の子の狐がきっといつの間にかつけたに違いないものです。慌てて抜こうとする、尻尾は抜けません。
「くたばれ」
 弟の鉄砲から鉛玉が飛び出しました。
 途端、兄は、自分が山道を歩いている事に気づいたのです。
 どこか遠くで、女の子の笑いが聞こえました。
 兄は弟を捜すことも忘れて、逃げ帰ったそうです。
 弟は数日たってから見つかりました。山の中なのに、海だと化かされて、溺れていたそうです。

更新日:2009-05-18 21:16:03