そして・・・２０年後・・・穏やかな朝・・・
悠介は、キッチンで、コーヒーとピザトーストを食べてから
食器を洗っていた・・・。

「優華、いってくるよ・・・」

でも・・・愛しい優華の返事は、なかった・・・。

優華は、１年前に、亡くなっていた。



２年前・・・優華は、５３歳になっていた。

どことなく顔色の悪い優華に・・・

「病院で、ちゃんと診てもらったら？」

「大丈夫よ。 更年期って年代なんだから・・・私も。
友達に聞くと、みんな、どこかしら調子が、悪いみたいだし・・・
たいした事ないわよ・・・」

「どこも悪くないと分かれば、安心出来るだろう？
お願いだから、病院で、診てもらえって・・・」

そして、仕方なく行った病院で・・・
通院しながら、検査が続いて・・・
はっきり病名が、分かった時には、すでに手遅れだった。

膵臓がん・・・
余命・・・長くても、３ヶ月・・・

優華は、入院しての抗がん剤治療も、断って・・・

「３ヶ月しか、生きられないのなら・・・
ベッドに、縛り付けられて・・・自由もないまま・・・
辛い治療は、受けたくない」

そう言って、痛み止めの薬だけを処方してもらい・・・。

このマンションで、それまで通りの生活を続けた。
何も、変わらない生活のように、見えた。

朝は、ちゃんと起きて、食事の支度をしてくれて・・・
「いってらっしゃい」 と笑顔で、送り出してくれた。

夜は、俺が、帰ると、美味しい食事の用意が、してあって・・・。

ふたりで食事して、ふたりで後片付けをして・・・
一緒に、お風呂も入って・・・
ベッドで、優華を抱きしめて眠った。

１度だけ・・・夜中に目覚めて・・・
優華が、泣いているのに、気付いた・・・
あの泣き虫の優華が、たった１度だけ・・・。

そして・・・余命３ヶ月と言われた優華は・・・
８ヶ月近く寿命を延ばし・・・１１ヵ月後・・・
苦しむ事もなく・・・俺の腕の中で、眠るように逝った。