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小説

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第2章 曼荼羅と友人

挿絵 273*247

 猥雑化して林立する高層ビル群を抜けるときだった。蟹沢の携帯電話がなった。ディスプレイに表示された発信者の名前は、笠松芳雄だった。
 これが偶然なのか、絵美を経由してなのか、一瞬では判断できなかった。
「久しぶりだけど、元気か?」
 抑揚のない口調で、芳雄が話しかけてきた。
「二ヶ月ぶりというところかな」
 蟹沢は路肩にクルマを停め、調子をあわせるように無機質な調子で答えた。
「親父は四国に行っている。お遍路さんをするんだってさ。西洋と東洋の哲学を融合させた結果が、弘法大師との同行二人のお遍路さんということさ。今朝の朝一番の飛行機で徳島へ行っちまったよ」
 芳雄の言葉に絶句する以外なかった。
「なぜ…」
 蟹沢の口から漏れてきたのは、その二文字だけだった。笠松芳雄は蟹沢の動揺を無視して、さらに続ける。
「もっとも、俺は親父が行くのを確認したわけじゃない。二週間前に聞いていて、今日が出発日だということを思い出しただけさ。絵美だって知っているはずだがな」
 これからの行動を制御する言葉に対し、蟹沢はやはりすぐに反応できなかった。
「そんなに驚くことはないだろう。絵美がおまえに余計なことを頼んだことくらい、お見通しなんだよ」
「絵美から訊いたのか?」
 彼女の話では、芳雄に笑って相手にされず、以降は連絡しづらいということだった。蟹沢に相談したことで、兄に対して即刻探りの電話を入れたということだろうか。蟹沢はまだ頭脳が活発に動いていない現状を意識しつつ、ダイレクトに義雄に訊ねた。
「あいつは正直だけが取り柄だからな、考えていることがよく解る。三日前だったかな、絵美からヘンな電話をもらったのは。そのときは、親父のところへ珠子がよく来ていることに、必要以上に不審がっていた。そしてさっきは、おまえとは最近会っているのかという電話をしてきた。仕事中にそんなくだらない電話をしてくる背景には、きっと何かあると思うだろう」
 珠子というのが、芳雄の妻であり、絵美の義姉である。

更新日:2008-12-02 14:59:10