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9 ケイコ来襲

退院して1日だけ自宅で休んだ。

僕が血まみれゲロまみれにしたベッドは
一郎が丁寧に始末してくれていた。

マットレスと枕とシーツは廃棄したが、
僕が心配していた夏がけの羽根布団は
カバーをとったら
まったく汚れていなかったそうだ。

僕はわれながらよくやったと思い、
一郎が買ってくれた僕の羽根布団を
ふかーっと抱いて、
すりすりした。

新しい、明るい模様のカバーが
かかっていた。
嬉しかった。

久しぶりの、二人の住いだ。

一郎の部屋に入ってみた。
一郎の匂いがして、僕はきゅーきゅーな気持ちになった。
一郎のベッドにばふっと倒れこんだ。

…幸せだ、と思った。
僕の願った幸せが、ここにあるんだ、と。
あきらめる必要なんかないんだ、と。

僕は一郎のベッドで丸くなって昼寝した。




しばらくして、玄関のチャイムで目が覚めた。
営業さんかな、と思ったが、一応見てみたら、
ケイコだった。


「…入院してたんだって?」

「…ええ。ちょっと。」

「…大丈夫?」

「…一応は。」


ケイコに紅茶をだしてやったが、
僕はまだ飲む気になれず、
水にした。


「…ねえ、うさこ、頼みがあるんだけど…。」

「…なんですか。」

「…一郎に、スピーチはともかくとして、
式だけは出るように説得してくれない?
一応、仕事だって言ったんだけど…
親父がすごく気にしててさ…。」

「…は?」

僕は最初話がまったくわからなかった。

更新日:2009-05-05 11:05:47

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