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2ndtrip

~RUMIside~


『な、なんなの!これ・・・!』

ルミは自分の髪を白く細い指に絡ませ、じっくりと観察する。

真っ黒というよりはむしろ黒に深い深い緑色を混ぜた様な暗色の髪。

腰まで伸びた長い髪は、弾力がありハリと潤いに満ち溢れている。

校庭には誰もいない。

ルミはいつも通り放課後立ち寄る化学室の窓辺に腰掛ける。

(なによこれ・・・怪奇現象?夢オチ?それとも記憶喪失??)

この教室の窓は、明かりを多く取る広い作りになっていて

風通しも良いので、どの季節も快適に過ごすことが出来る。

心地の良い風のにおい。

さらさらと流れるルミの茶髪は、つい今しがた黒髪に変色した。とルミは思っている。

変色をしたのか、ルミが黒染めをしたのかは誰も知ることが出来ない。

ルミ本人が、髪色の変色にわけがわからなくなっているくらいだ。

この教室には、ルミ以外誰もいない。

急に茶髪から黒髪に変色した髪の毛をじっと見つめ、ルミは絶句する。




6限目の授業を終えたルミは、(もちろんその時の髪色は茶色であるが)

チャイムと同時に教室を出る。

2階の教室を4階まで駆け上がり、廊下突き当り一番東にある

化学室を目指す。

いつもの廊下、いつもの校庭の雑音、いつもの放課後。

ぽかぽかとした春の陽気に、思いっきり窓を開けると

爽やかな春の息が教室に溢れ込んだ。

両手を窓辺の棚にぎゅっと乗せ、ふわりと腰かける。

華奢なルミの身体は、同年代の女の子なら誰もが憧れるモデル体型。

細身の体系の割には胸元はふっくらとしたDカップ。

指も腕も足もスラッと長く、ちょっとした買い物に出掛ける度に

「キャッチ」や「スカウト」「ナンパ」と次々に声を掛けられてしまう。

ルミ自身、そういった浮ついた世界には無関心な為大抵の場合は

スッと通り過ぎてしまう。

みんな立ち止まるからしつこい勧誘に遭うのだ。

声を掛けられる事や、女の子から外見について羨ましがられる事は

ルミにとって気持ちの悪いことでは無かったし、

腰まで伸ばしたやわらかい髪は、ルミ自身のお気に入りでもあった。





初めて髪を染めたのは小学校6年生の夏休み。

近所のドラッグ・ストアで780円の髪染めを購入し風呂場で染めた。

今は2ヶ月に1回、美容院で1番明るいアプリコット色に染めている。

もちろん、担任教師は毎日のように注意する。

そしてルミはそんな担任の声が聞こえていないような様子で窓の外を眺めているのだった。

窓辺に腰かけたルミは少し頭を上に向けて校庭の風を確かめる。

ふいに、ルミは新しい財布が欲しいなと思う。

昨日見かけたGUCCIのマルチカラーパイソン コンチネンタルウォレット。

(十四万七千円だっけ。欲しいなぁ。)




その5分後に、何気なく触れた髪によって狼狽する自分がいることなんて知らずに。

更新日:2014-08-13 16:36:14

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