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2-6/保健室で



 身体が痛い……。
 全身麻酔が効いてるみたいな、皮膚の触覚が実体から10センチくらいズレているような感覚と共に、俺は目を覚ました。
 視界に映ったのは、真っ白なタイルにポツポツと黒い穴が沢山開いたような構造の天井板と、そこにくっついている蛍光灯。
 そして――涙目の、半透明な女――華子。

「た……、」
「よう、華子……。ここ、何処だ……?」
「たろーさーーーーん!!!」

 ガバッ! と覆い被さろうとして、当然の如くすり抜けてしまう華子。
 何がしたいんだテメーは。
 しかし華子が幽霊で助かった。もし今誰かに抱き付かれたら、そのまま帰らぬ人になる自信がある。

「良かった、このまま目が覚めなかったらどうしようかと思いましたっ、うぅうっ!」
「馬鹿野郎……こんなカオスな作品で、主人公の俺が死んで堪るか……。」
「……そうですよね……うぅ、本当に……死ねばよかったのに。」
「なんかそのセリフどっかの都市伝説で聞いたことあるぞ!!」
「お互いに幽霊だったら、ド突きツッコミとか色々出来たのにっ! どうして息を吹き返したりしたんですか!! 馬鹿! ドジ! 変態っ! 空気嫁!」
「五月蝿ぇっ! なんで俺が怒られにゃあならんのだッ!! 3番目の個室に帰れ!!」

 頭が冴えてくるに従って、視界に入る様々な情報がやっと冷静に処理出来るようになってきた。
 どうやら此処は病院ではなく、学校の保健室のようだ。今日は創立記念日で休校のはずなので、当然ながら俺と華子以外には誰もいない。
 せめて保健室に常駐してる先生でもいてくれればよかったのだが、俺の淡い期待は静寂によって打ち砕かれた。
 ……あと、まさかとは思うが、部屋の片隅にある人体模型は動き出したりしないよな?

「何言ってるんですかー。人体模型が動くわけないじゃないですかっ。もしかして馬鹿なんですか?」
「……お前が言うか。つーか……何、その頭。」

 よくよく見ると、華子の髪型が変わっていた。
 一般的な花子さんに準えたおかっぱ頭は割と近代的な風貌にイメチェンされていて、不覚にもちょっと可愛いとか思ってしまった自分には心の中で鉄拳をぶち込んでおく。

「あ、気付きました? えへへーっ、太郎さんが三途の川までお出掛けしてる間に、ちょっとメリーさんの相方さんに頼んでカットしてもらったんですよ。似合いますか? 太郎さん、こういう髪型の子が好みなんですよね?」
「……待て。えーっと、何処からだ? 俺はどういう順番でツッコんでいけばいい?」
「焦らず、一つずつどうぞ。突っ込みの時、左手は――添えるだけ!」
「てめぇこの野郎! セリフの度にボケを増やすな!」

 だいたい、俺って気絶してたんじゃなくて死んでたのかよ!
 息を吹き返すとか、三途の川とか……そんな危篤状態なら学校の保健室じゃなくて病院に連れていけ病院に! そんで俺もよく頑張ったよ! 真っ当な医者の手当て無しによく蘇生したよ! なんか今日はご褒美に美味しい物でも食べさせてやりたいぜ!

「つーか……メリーさん? ……相方? 何? 俺が死んでる間に、お前ら仲良くなってんの?」
「何言ってるんですか。太郎さんがコンクリート上で墜死する直前に助けてくれたんですよ、メリーさんは。覚えてないんですか?」
「え……?」

更新日:2009-04-28 22:00:20

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はなこさんと/第二話「めりいさんと」