• 1 / 20 ページ

2-1/わたし、メリーさん



 とある公園のベンチに、二人の男女が腰掛けていた。
 一人は、OL風。もう一人は――ちょっと形容し難い姿の、青年だった。

「……また、着信拒否……。」

 はぁ……と溜息をついて、女性は携帯電話を閉じる。
 これは決して、新しい恋人との恋愛が上手くいっていないという、人間界にありふれた光景ではない。
 彼女は、人間ではないのだ。その隣で――巨大な鎌を抱えて欠伸をしている、青年同様に。

「またッスか……これで今月10件目ッスね。」
「何よー! アンタもちょっとくらいは電話掛けなさいよ!」
「俺はほら、アレですから。最後のキメ役。電話は任せるッス。」

 手をパタパタと振って、頑なに携帯電話の受け取りを拒む青年。
 彼らの正体。
 それは、とある都市伝説。
 今から十数年前に、インフルエンザみたいに大流行した――あの、“メリーさん”と言えば、聞き覚えのある方も多いのではなかろうか。
 厳密には、彼らは数多くのメリーさんを抱える幽霊会社メリープロジェクトの社員で、この地域を担当している“派遣メリーさん”なのだが、それはさて置き……。

「あーもう役立たず! いいわよいいわよ、私一人で頑張ればいいんでしょ!」
「って言うか、今のご時世に霊感ゼロの人間を狙うってのが間違いなんじゃないッスか。」
「う……。」
「昔の安っぽい電話ならいざ知らず――今時そんなやり方、ちょっと無理がありますよ、先輩。」

 メリーさん業界は窮地に追い込まれていた。
 人間から、日増しに薄れていく霊感。さらに発達する通信技術。
 このご時世、「私、メリーさん」などと電話を掛けたところで、まともに驚いてくれる人間など百人に一人、いるかいないかなのだ。

「……じゃあ、どうしろって言うのよ……。」
「霊感の強い人間を探せばいいじゃないッスか。」
「フン。そんな人間、都合よく――……え?」

 霊感の強い人間なんて、現代には殆ど居ない。
 千人に一人さえいない。億単位で、やっと一人か二人、見付かる程度だ。
 本物の霊能力者なんて、この世界に100人もいないのである。
 だから、彼女はこの街でそれを探すのを諦めていた。
 もとい本当に霊感の強い人間がいれば、わざわざ探さなくても引き寄せられるように巡り会ってしまうのが、妖怪や幽霊といったモノの類の宿命なのだ。だから、これまで真面目に探そうと思ったことは一度も無かった――と言っても過言ではないような彼女にとって、その出会いはまさに、天から舞い降りた奇跡のよう。

「? どうかしたッスか?」
「嘘……いた!?」
「どこに。」
「あの学校よ! なんかよく解んないけど、凄い怪奇体質! あんなの前からこの街にいたっけ!? 兎に角、やっと見つけた、あいつなら――!」

 飛び跳ねるように立ち上がり、そして走り出してしまう先輩を、鎌を抱えた青年はワケも解らないままに追いかけるのだった――。




++++++++++++++++++++++++++++
はなこさんと/第二話『めりいさんと』
++++++++++++++++++++++++++++



更新日:2009-04-29 16:22:14

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

はなこさんと/第二話「めりいさんと」