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真顔でいう女子に少し笑いそうになったがこらえて口を開いた。
「いるのはもっと南の海だよ。オウムガイの殻はとても軽いから、死んでしまうと沈まないでずっと流れてくるんだって。漂着してくるから最初はフジツボがたくさんついていて大変だった。その時に欠けちゃったんだよ」
「ああ、そうなんだ。そうだよね。そんなに大きいのいるわけないよね。真珠はないの」
「ないよ」
「でもマンボウあるくらいだからきれいなのありそうな気がするけど」
「マンボウはいないよ」
「マンボウガイっていうんだよ」
大きなホタテのような貝を見せながら言う。
「でも、これだけ広いといいねえ。秘密基地なんでしょ」
「ここに住んでるんだ」
彼女は倉庫の中を見渡しながらいった。
「いいね。雨の日は中で遊べるし、こうしてものもたくさん置けるし。うちなんて、家の中にちょっと汚れた靴で入ったらもう怒られるよ」
夏は炎天下の外の方が涼しいくらいだし、冬は日が落ちた途端に息が白くなりそうに寒くなる。
「そうでもないよ」
「なんか、変わってるね。かわいい女の子にほめられたら、普通うれしいものでしょ」
「え? ああ、そうなんだ」
かわいい。顔を見れば確かにかわいいかもしれないが、彼女の方が僕より背が高いせいで、自然と見えるのは首の高さだ。
それにしても、誰でも心のどこかで自分はもっとできるとか、賢いとか思っているものだけれど、この女子はそれが強いみたいだ。
「ただいま」
姉の声が聞こえてきた。
「お帰りなさい」
彼女が答えると、足音が早くなった。
「まーくん、お友達なの」
はしゃいでいる姉の声が聞こえてきた。
「そうです。友達です」
自分より先に女子が答えた。
カーテンをくぐって姉が姿を見せた。
こざっぱりとした白いシャツに、ジーンズ。一本にまとめて背中にたれている髪はとても長いのが見て分かる。
女子は黙って姉を見ていた。その顔はこわばっていて、隠しているが、驚いているのが分かる。
「はじめまして。真麒の姉の麟です。あの、見覚えがあるんだけど、どこかであったことあったかしら」
「いいえ、初対面です。私、鳥谷部花珠(とりやべかじゅ)です」
彼女は急に礼儀正しくなって頭を下げた。
「クラスメイト、あ、もう統合して新しい学校になるんだから、古い学校の時のクラスメイトかしら」
「いえ。新学期が始まったら転校してくる予定です。今日は、一人でヒマにしていたら、真麒くんが声をかけてくれて案内してくれました」
「そうなの。よかったわ。真麒くんはあまり人といないから」
「姉さん」
非難を込めていったのが通じたのか、姉は苦笑いを浮かべた。
「ごめんね、おじゃまして。じゃあ、花珠さん、同じクラスになるか分からないけど麟と仲良くしてあげてくださいね」
「はい、麟さん」
姉は軽く頭を下げてから、宿直室に向かっていった。その足取りがスキップをしている。余程、この子を気に入ったのだろう。
「気に入られてたね」
「そうじゃなくて、真麒くんが、友達といるのが嬉しいんだよ、お姉さん」
「そうなのかな」
「そうにきまってるじゃない」
鳥谷部花珠はそういって笑った。
「はい、笑顔、笑顔。顔だけでも笑っていると楽しくなるんだって」
信じられない事だ。そう思っていると女子が頬に手を突っ込んできた。力任せに口元を引っ張った。
「笑顔、笑顔」
笑いにはならないが久しぶりにするそれは冗談ではすまないほどに痛くて、どれだけ笑っていないか分かる。
「楽しくなってきた?」
そういわれると痛いだけなのに、嘘みたいだが楽しくなってきた。
「楽しくなってきたでしょ」
頷くと彼女はにっと笑った。
「真麒くん、麦茶とお菓子を用意したから、真麒くん」
「いるのはもっと南の海だよ。オウムガイの殻はとても軽いから、死んでしまうと沈まないでずっと流れてくるんだって。漂着してくるから最初はフジツボがたくさんついていて大変だった。その時に欠けちゃったんだよ」
「ああ、そうなんだ。そうだよね。そんなに大きいのいるわけないよね。真珠はないの」
「ないよ」
「でもマンボウあるくらいだからきれいなのありそうな気がするけど」
「マンボウはいないよ」
「マンボウガイっていうんだよ」
大きなホタテのような貝を見せながら言う。
「でも、これだけ広いといいねえ。秘密基地なんでしょ」
「ここに住んでるんだ」
彼女は倉庫の中を見渡しながらいった。
「いいね。雨の日は中で遊べるし、こうしてものもたくさん置けるし。うちなんて、家の中にちょっと汚れた靴で入ったらもう怒られるよ」
夏は炎天下の外の方が涼しいくらいだし、冬は日が落ちた途端に息が白くなりそうに寒くなる。
「そうでもないよ」
「なんか、変わってるね。かわいい女の子にほめられたら、普通うれしいものでしょ」
「え? ああ、そうなんだ」
かわいい。顔を見れば確かにかわいいかもしれないが、彼女の方が僕より背が高いせいで、自然と見えるのは首の高さだ。
それにしても、誰でも心のどこかで自分はもっとできるとか、賢いとか思っているものだけれど、この女子はそれが強いみたいだ。
「ただいま」
姉の声が聞こえてきた。
「お帰りなさい」
彼女が答えると、足音が早くなった。
「まーくん、お友達なの」
はしゃいでいる姉の声が聞こえてきた。
「そうです。友達です」
自分より先に女子が答えた。
カーテンをくぐって姉が姿を見せた。
こざっぱりとした白いシャツに、ジーンズ。一本にまとめて背中にたれている髪はとても長いのが見て分かる。
女子は黙って姉を見ていた。その顔はこわばっていて、隠しているが、驚いているのが分かる。
「はじめまして。真麒の姉の麟です。あの、見覚えがあるんだけど、どこかであったことあったかしら」
「いいえ、初対面です。私、鳥谷部花珠(とりやべかじゅ)です」
彼女は急に礼儀正しくなって頭を下げた。
「クラスメイト、あ、もう統合して新しい学校になるんだから、古い学校の時のクラスメイトかしら」
「いえ。新学期が始まったら転校してくる予定です。今日は、一人でヒマにしていたら、真麒くんが声をかけてくれて案内してくれました」
「そうなの。よかったわ。真麒くんはあまり人といないから」
「姉さん」
非難を込めていったのが通じたのか、姉は苦笑いを浮かべた。
「ごめんね、おじゃまして。じゃあ、花珠さん、同じクラスになるか分からないけど麟と仲良くしてあげてくださいね」
「はい、麟さん」
姉は軽く頭を下げてから、宿直室に向かっていった。その足取りがスキップをしている。余程、この子を気に入ったのだろう。
「気に入られてたね」
「そうじゃなくて、真麒くんが、友達といるのが嬉しいんだよ、お姉さん」
「そうなのかな」
「そうにきまってるじゃない」
鳥谷部花珠はそういって笑った。
「はい、笑顔、笑顔。顔だけでも笑っていると楽しくなるんだって」
信じられない事だ。そう思っていると女子が頬に手を突っ込んできた。力任せに口元を引っ張った。
「笑顔、笑顔」
笑いにはならないが久しぶりにするそれは冗談ではすまないほどに痛くて、どれだけ笑っていないか分かる。
「楽しくなってきた?」
そういわれると痛いだけなのに、嘘みたいだが楽しくなってきた。
「楽しくなってきたでしょ」
頷くと彼女はにっと笑った。
「真麒くん、麦茶とお菓子を用意したから、真麒くん」
更新日:2009-05-04 06:52:09