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小説

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 彼女を案内したのは一見すれば海風に晒された倉庫。そこが僕の家だった。もともと近くで父親が工場をしていたのだが、不景気で工場も自宅も失った。そして父親が命も手放し残ったのはこの倉庫だけだった。
 姉と二人で、守衛や夜勤の人間が過ごすために用意されていた宿直室で生活をしている。
 宿直室は八畳程で狭いが、それ以外の場所は、倉庫だったせいでスペースはたくさんある。その一角に拾ってきたカーテンで部屋のように区切って、倉庫に置き去りになっていた食器棚を置いて、漂着物を飾っていた。
 大小さまざまな椰子の実。オウムガイの殻。人の顔よりも大きい一枚貝。読めない文字の書かれた、黄色や緑、青のガラスの瓶。海で流されたせいで丸くなってしまった溶岩。綺麗に磨かれて光沢を放つ流木。
 しかし、今日持ってきた浮き球がずば抜けているように思えた。いつもなら十分とかからない道を三十分あまりかけて運んできた苦労分が上乗せされているかもしれない。
 暫くコレクションを眺めていると、彼女を放っておいた事に気づいた。あきれられると思ったが何かしきりに頷いている。
「すごいたくさんあるね」
「いつか全部ここを埋め尽くしたいんだ」
 彼女は棚に。くっつきそうになるほど顔を近づけて、宝物に手を触れたい様子だった。
「触ってもいいよ」
「ありがとう」
 彼女が最初に興味を持ったのはオウムガイだった。オウムガイは、殻はそれほど大きくはないが光沢がきれで、拾った物の中でも一番よいと思っている物だ。これなら浮き球と取り替えても見劣りはしないように思えた。
「すごいね。これなにアンモナイト」
 はしゃぐ女子に少し嬉しくなった。
「それはオウムガイっていうんだ」
「ふ~ん」
 彼女はオウムガイを持ち上げた。
「ほしいの」
「耳近づけると波の音がするかなって」
「多分しないよ。少し欠けているんだ」
「それは残念」
 彼女はいうとオウムガイを食器棚に戻した。
「この辺りにはこんな大きい貝がいるんだ。びっくりだ。これから真珠ってとれるの?」

更新日:2009-05-04 06:51:23