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 三日目の売上は26,000円、四日目は18,000円、五日目は7,500円と、日を追うごとに売上は落ちていった。最初はものめずらしさで集まってきた客も、根付くまでにはなかなか至らなかった。
 美鶴もさすがにこのままではいけないと思い、パンフレットを駅前で配ってみることにした。
 「パソコンつきの私立図書館です!よろしくお願いします!珍しい本がいっぱいあります!ワンルーム1時間500円です!」
 思いつく限りいろいろなことを叫んでみたが、なかなかパンフレットを受け取ってくれる人はいなかった。叫びつかれてぼおっとしていると、目の前の母親が小さな男の子に大声で泣かれて途方にくれていた。男の子は、仰向けになり手足をバタつかせてぐずっていた。
 「ママのばか~!あっちいけ~!」
 「大輔お願い、保育園に行きましょうよ。ママがお仕事に行かなくちゃ大輔だってチョコやクッキーが食べられなくなるのよ。それでもいいの?」
 「チョコななんかいらないもん!ほいくえんなんかいかない!」
 大輔はいつまでもぐずっていたので、美鶴は見ていられなくなり声を掛けた。
 「ぼく~保育園じゃなきゃ行ってもいいの?」
 大輔は涙ではれた目で美鶴を見た。
 「…どこ?」
 「楽しいとこだよ、ついといで!」
 美鶴は母親に目配せをして、そっとパンフレットを渡した。母親は多少不審に思いながらも、この場を何とかしのげたことに感謝しながら美鶴についていった。
 図書館は歩いてすぐだった。
 「ぼくアンパンマンは好き?」
 「大好き!」
 美鶴は児童書のコーナーからアンパンマンの絵本をとって、大輔に渡した。初期のころのオリジナル絵本「あんぱんまん」と「アンパンマンをさがせ」の2冊だ。
 「あ~!アンパンマンのかおがちがう!めがちっちゃい!」
 アンパンマンには30年の歴史があり、テレビアニメを見慣れた子供には初期の作品はニセモノのように見える。
 「そうでしょう!昔はこんな顔だったんだよ!それからこっちは、たくさんの顔の中からアンパンマンをさがすんだよ。あっちに座ってやってみる?」
 「うん、やってみる!」
 美鶴は大輔をテーブルにつかせ、本を読ませた。すると芳江もジュースを持って仲間に加わり、大輔と話し始めた。
 「え~面白そう!おねえちゃんも一緒にやっていい?」
 「なんだよおとなのくせに。しょうがないな~。」
 大輔はまんざらでもないという顔で、一緒にアンパンマンを探し始めた。そのすきに美鶴は母親を図書館からそっと連れ出した。
 「7時半までに迎えに来てくださいね。それまでお子さんを見ていますから。」
 母親は携帯の連絡先を美鶴に渡し、何度も何度も頭を下げて駅に向かった。
 「かまいませんよ、どうせ暇ですし。」
 美鶴はそうつぶやくと、大輔を芳江にまかせて今度は商店街に宣伝に向かうのだった。

更新日:2009-04-05 23:20:14

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