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 ≪建築関係の本≫のコーナーは、了によって一番広いスペースが確保された。
 「団地さん」というペーパークラフトの本の前には、実際にその本を切り取って作った手のり団地を並べ、「【光の教会】安藤忠雄の現場」という本の前には教会のレプリカを置き、「ル・コルビジェ」のデザイナーズチェアの上に「コルビジェ」や「ガウディー」の写真集を飾った。
 「あきら~、すごい熱の入れようだね。」
 「いやあ、これでも専門的になり過ぎないように気をつけているつもりだけどね。建築に興味のない人でもわかりやすいでしょ。」
 ふと見ると、建築にはほとんど興味のなかった芳江が“手のり団地”を手に乗せて、じ~っと見ている。
 「もうなくなった古い団地もあるからね。よっし~には珍しいかな?」
芳江は手のり団地を元の場所にもどし、「ちょっと家に帰る。」と言い残し出て行った。何かを思い出したようだが、すぐにもどるだろうと思い、美鶴も了も深くは聞かなかった。
 まだまだ他にやることがあるのだ。


 棚の横に本の分類を記した案内板を貼り、新刊コーナーにはお勧め図書のコメントをつけ、入り口付近に利用者用のパンフレットを置いたりしているうちに、あっと言う間に夕方になった。
 「少し休もうか。」
 利用者のサービス用に、冷蔵庫にはペットボトルのお茶やジュースが何本か入れられている。美鶴はその中から“十六茶”を選んで二人分コップに注ぐと、丸テーブルに乗せた。二人ともかなり疲れていたので、1杯目は一気に飲み干し、すぐに2杯目を注ぐとやっと落ち着きを取り戻した。
 「あ~疲れた~。でもほとんど片付いたね。」
 美鶴はすっかり図書館らしくなった1階を見渡し、満足そうに言った。
 「あと1日だからね、片付かないと困るけど…。」
 そう言いながら、了も自分たちの仕事に満足そうだった。あとは実際に接客する場面を想定して、シュミレーションするばかりだ。
 実際に…。
 「そういえば、よっし~遅いね。」
 すっかり暗くなった窓の外に目をやると、人影が見えた。
 「うわさをすれば…。」
 芳江は紙袋を下げて戻ってきた。
 「ただいま~!ごめんね、遅くなっちゃった。」
 そう言うなり、紙袋から箱を取り出してテーブルに置いた。靴を買うときに入れてくれる長方形の箱のようだ。芳江が箱のふたを開けると、中には小さな人形が並んでいた。
 「ジオラマ?」
 人形は2~3cmくらいの粘土で出来ており、顔はのっぺらぼうだが服には絵の具で色がつけられていた。
 「すごい、これ作ったの?器用ね。」
 「これだけじゃあないよ!」
 芳江は袋の中からもうひとつの箱を取り出し、ふたを開けるとこちらには噴水や滑り台、ブランコなどが入っていた。どれも10cmくらいで、やはり絵の具で色がつけられていた。了はすぐに取り出し、手のり団地の前に並べてみた。テーブルの上にまるで昭和の風景のような空間が広がった。
 「なんか、いいね。建築って言うより、工作のコーナーみたいだけど。」
 芳江も実際に並んだものを見て、満足したようだった。
 「お客さん、いっぱい来るよね~!」
 3人は飽きることなくその風景をずっとながめていた。

更新日:2009-04-05 23:18:10

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