• 29 / 31 ページ

惰性

 忍者ショーに集まる子供たちは、次第に女の子ばかりになっていった。どの子もみな、恭二のデザインしたピンクのひらひらした忍者の衣装を着て、満足気にポーズを決めている。
「ねえ、共さま、うちの娘にこの衣装似合うかしら? 」
「もちろんですとも、春子さん」
「あら、うちの娘だって、なかなかのものでしょう? 」
「桜ちゃんも結衣ちゃんに引けをとりませんよ、佳苗さん。どちらも素敵ですとも」
「うちの娘はどう? 」
「うちだって負けてないでしょう? 」
「うちの娘は? 」
「うちは? 」
 図書館は、芸能プロダクションよろしく母娘の見栄張り合戦の様相を呈していた。
 近ごろでは了も恭二にまかせっきりで、忍者ショーもやる気にならなかった。
「よっしー元気かな? 」
「さあ……」
 芳江がいなくなっても、ママさん連中が事務作業を手伝ってくれたので、図書館の営業には不都合はなかった。しかし、了も美鶴も、思わぬ方向へと展開していく図書館の営業に、疑問を持っていた。
「ねえ、美鶴、よっしーに電話……」
「さてっと、気分転換に買い物でもしてこようかな! 」
 了は強情な美鶴の態度に、思わずひとりごちた。
「本当は帰ってきて欲しいのに」
 素直になれない美鶴の背中が、淋しそうに見えた。

更新日:2009-10-28 17:01:31

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook