• 26 / 31 ページ
「柳生くんが、あのストーカー女のこと“まだ危険だと思うか?”って聞いたとき、池田くんは“さあ、どうでしょう?”って答えたんだ」
 誠一はお茶を飲んで一息つくと、ようやく語り始めた。
「池田くんは、ぼくのゲームのプレイに夢中で、柳生くんの方も見ずに答えた。しばらく何もなかったから、安心しきっていたんだと思う」
 それからまたお茶を飲むと、しばらく間を置いた。
「それで、出てっちゃったの? もう危険はないと勝手に判断して? 」
 美鶴はいくぶん語気を荒げて聞いた。真一にしては男らしくない、無責任だと非難するように。
 誠一はその問いには答えず、姫子の行動について詳しく語りはじめた。
「あの女、ブレーカーを落とすとすぐに暴れ始めた。はじめはなんだか分からないから、ぼくたち聞き耳を立てて様子を伺っていたんだ。すると、音はだんだん2階、3階と上がってきて、とうとうぼくらのすぐ近くまで来たんだ」
 誠一は口が渇くのか、自分のお茶を飲み干してしまい、恭二の分のお茶にまで手を出したが、未だに恭二は気絶したままだった。
「そこのドアの前に立ったとき、ほとんど髪の毛で覆われた顔から右の目だけ覗かせて、すごい目力で池田を睨みつけたんだ。ふたりとも金縛りにあったみたいに動けなくて、じっと見つめていたら、あいつ本当のユウレイみたいに足を動かさずに、滑るようにこっちに近づいてきた。
 ゆっくり、ゆっくりと。
 そして池田くんの前まで来て腰を低くすると、彼の目を見据えてゆっくりと手を伸ばし、彼の首に手をかけた瞬間、彼は気を失った。すると今度は、辺りの物を手当たり次第に床に叩きつけ、破り、破壊の限りを尽くして帰って行ったんだ。ふつうに足早に。ぼくのことなど目に入らないというように」
 最後のところで、了は軽く鼻を鳴らした。

更新日:2009-09-28 11:18:38

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook