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執念の女
恭二の人気はうなぎ登りだった。ママさんチームはもちろんのこと、歴女のお姉さま方も加わり、土曜の午後は黄色い声援で埋め尽くされた。恭二のコスプレにも磨きがかかり、前田慶次のすみれ色の着物は、かぼちゃのように膨らんだ袴と合わせ、歌舞伎役者の派手さは失わずに気品に満ちた装いだ。
そうなると、子供向けのショーと一緒にする訳にはいかなくなり、二部構成で2時からが子供向け、3時からはママ向けに分けられた。子供向けのショーは今まで通りだが、ママ向けのショーでも真一が登場し、もっぱら恭二の切られ役に徹した。
一度など、真一が恭二を切る役を演じたところ、黄色い声援が一瞬にしてどす黒い野次に変わり、「ちょっと、なにあんた恭様を切ってんのよ! 」だの、「ひっこめ~! 」だの、散々な言われようだった。さすがにこれには皆、真一のことが気の毒になったが、今更元に戻すわけにも行かない。
「ごめんね、真ちゃんだってカッコイイ役やりたいよね」
「真ちゃんのお陰で忍者ショーを続けられるし、今月からちゃんと給料払うからね」
「リアクション大王だから、子供も喜んでるしさ」
三人の必死の説得で、真一は何とか持ちこたえた。しかし夜になると、恭二と誠一はいつもふたりでゲームをして過ごし、真一はゲームに興味がなく、蚊帳の外だった。
「お前ら、あんまりゲームばっかやると、テンカンになって倒れるぞ」
誠一は、ゲームの画面を見つめたまま答えた。
「うちの親みたいなこというなよ! 大丈夫だよ。夜だけだし」
恭二は誠一のテクニックを見ながら、スケッチブックにキャラクターの衣装を書き写していった。
「斉藤さん、後ろも向いてください。あーなるほど」
真一は、そもそもなぜここに寝泊りすることになったのか思い出していた。すべての原因は、姫子に恭二がストーカーされたことから始まった。姫子のストーカーから恭二を守るため、姫子の存在を知っている自分が近くにいて、もしものときに備えるだめに。
果たして、今も危険に晒されているのだろうか?
「なあ、池田さん。まだ姫子のこと危険だと思うか? 」
「さあ、どうでしょう」
あれだけ怯えていたことなど忘れて、他人事のような返事だった。
「ここに来てから一度も会っていませんしね」
「もう諦めたんじゃないのか? 」
事情もよく知らない誠一が、出しゃばって口をはさんだ。
「よしんば現れたとしても、しょせん女だから男にはかなわないだろう。
心配性だよな、あんた。女に勝つ自信がないのかい? 」
「了さんの方が強そうですものね」
恭二のこの言葉に、真一はカチンと来た。誰のせいでこんなところに寝泊りしていると思っているのか? 外に買い物に行くときも、付き添ってやっているのは一体誰だ?
真一はすごい勢いで荷物をまとめ、
「何があっても知らないからな! 」
そう言うと、図書館を出て行った。
恭二と誠一は、少しの間呆然としていたが、すぐにまたゲームを始めた。
「何もありゃしないさ」
真一が出て行った後、すぐそばで電線の影に隠れて潜んでいた人物がいた。
「あたしからは逃れられないよ」
そうなると、子供向けのショーと一緒にする訳にはいかなくなり、二部構成で2時からが子供向け、3時からはママ向けに分けられた。子供向けのショーは今まで通りだが、ママ向けのショーでも真一が登場し、もっぱら恭二の切られ役に徹した。
一度など、真一が恭二を切る役を演じたところ、黄色い声援が一瞬にしてどす黒い野次に変わり、「ちょっと、なにあんた恭様を切ってんのよ! 」だの、「ひっこめ~! 」だの、散々な言われようだった。さすがにこれには皆、真一のことが気の毒になったが、今更元に戻すわけにも行かない。
「ごめんね、真ちゃんだってカッコイイ役やりたいよね」
「真ちゃんのお陰で忍者ショーを続けられるし、今月からちゃんと給料払うからね」
「リアクション大王だから、子供も喜んでるしさ」
三人の必死の説得で、真一は何とか持ちこたえた。しかし夜になると、恭二と誠一はいつもふたりでゲームをして過ごし、真一はゲームに興味がなく、蚊帳の外だった。
「お前ら、あんまりゲームばっかやると、テンカンになって倒れるぞ」
誠一は、ゲームの画面を見つめたまま答えた。
「うちの親みたいなこというなよ! 大丈夫だよ。夜だけだし」
恭二は誠一のテクニックを見ながら、スケッチブックにキャラクターの衣装を書き写していった。
「斉藤さん、後ろも向いてください。あーなるほど」
真一は、そもそもなぜここに寝泊りすることになったのか思い出していた。すべての原因は、姫子に恭二がストーカーされたことから始まった。姫子のストーカーから恭二を守るため、姫子の存在を知っている自分が近くにいて、もしものときに備えるだめに。
果たして、今も危険に晒されているのだろうか?
「なあ、池田さん。まだ姫子のこと危険だと思うか? 」
「さあ、どうでしょう」
あれだけ怯えていたことなど忘れて、他人事のような返事だった。
「ここに来てから一度も会っていませんしね」
「もう諦めたんじゃないのか? 」
事情もよく知らない誠一が、出しゃばって口をはさんだ。
「よしんば現れたとしても、しょせん女だから男にはかなわないだろう。
心配性だよな、あんた。女に勝つ自信がないのかい? 」
「了さんの方が強そうですものね」
恭二のこの言葉に、真一はカチンと来た。誰のせいでこんなところに寝泊りしていると思っているのか? 外に買い物に行くときも、付き添ってやっているのは一体誰だ?
真一はすごい勢いで荷物をまとめ、
「何があっても知らないからな! 」
そう言うと、図書館を出て行った。
恭二と誠一は、少しの間呆然としていたが、すぐにまたゲームを始めた。
「何もありゃしないさ」
真一が出て行った後、すぐそばで電線の影に隠れて潜んでいた人物がいた。
「あたしからは逃れられないよ」
更新日:2009-09-26 11:03:32