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「姫子の復讐がそこで終われば良かったんだけど、あいつ味を占めてその後も何人かのイケメンを脅しまくったんだ。そしたら次第にその女が姫子だってことがバレて、警察沙汰にはなるわ、騙された奴らは後遺症で悩むわ、学校中でそのことが話題に上らない日はないくらい、貞子のイケメン狩りは有名だったんだ」
 真一はそこまで一気に喋ると、冷蔵庫から十六茶を出して飲み始めた。初夏の強い日差しは西に傾き始め、これから暗くなり始める図書館に不穏な影を落とした。
「警察沙汰になったのなら、学校は退学になったのですか? ……ぼくはいったいいつからストーカーされていたのかわからないのですが、気がついたのは2週間くらい前で、あの、なんて言うのでしたっけ? え~と、……あ、そうそうサブリミナル効果でしたね。そんな感じで彼女は少しずつ目に付くところに現れるようになったのです」
 美鶴の影にかくれていた青年は、2週間の間にそうとうダメージを受けたらしく、弱々しくポツリポツリと語った。
「学校から退学を言い渡される前に、自分から辞めてったそうだ。なにせ女子による《イケメンを守る会》とかができて姫子がイケメンになかなか近寄れなくなり、今までのようには楽しめなくなったのだろう」
「ぼくはこれからどうしたらいいのでしょう? 」
 青年の心細げな問いかけに、美鶴は姫子の白目がちな眼差しを思い出し身震いした。
「あの人、あなたの家の場所を知っているのよね? だったら家に帰るのは危険だわ。
 そうだ、しばらくこの図書館に泊まったら? 真一も一緒に泊まってくれるでしょ? 」
「何で俺が? 」
 真一は最初嫌がったが、自分以外には適役がいないことを理由に押し切られ、渋々承知した。
「頼りにしてるわよ! 柳生心眼流の達人さん! 」
 芳江にそう言われて満更でもない真一は、早速青年と一緒に荷物を取りに行くのだった。
「しょうがないな~。強い男は辛いぜ! 」
 美鶴は芳江の心にもないお世辞に苦笑しながら、二人に提供できる部屋を探しに二階へと上がって行った。

更新日:2009-09-12 16:11:48

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