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丸テーブルにつくと、真一は喪服の女性のことを語り始めた。
女性は名を宇都宮姫子といい、真一の高校時代の同級生で25歳になる。
そもそもなぜ女性が≪貞子≫といわれるようになったかといえば、姫子は失恋を機に変わってしまい、男に復習をし始め、その姿が≪リング≫や≪らせん≫に出てくる貞子のように不気味だったためそう呼ばれるようになった。
姫子が好きになった男はいわゆるイケメンで、モデルやタレントとしてもやっていけるほど整った顔立ちをしていた。それゆえ、姫子も失恋するのは仕方のないことだとは考えていたのだが、男の振り方に問題があった。
「お前カン違いするなよ。顔の悪い女には生きる資格なんてないんだよ、ブスッ!! 」
姫子はそれまでは普通の女の子で、告白するのに至りそれなりに努力していたようだ。ファッション雑誌を買って服のセンスや化粧を学び、ダンスでシェイプアップし、演劇部で発声や笑顔の練習をし、万全の体制で告白に臨んだ。じっさい、選んだ男がその男でなければ上手くいったのではないかと思うほど、姫子はそれなりにモテていたようだ。
それが、心無い一言で女心をすべて失ってしまったのだ。
姫子は失恋したのち、慰めようと寄ってくる男を歯牙にもかけず、ひたすら演劇にうちこんだ。それも、≪四谷怪談≫やら≪番町皿屋敷≫、≪リング≫、≪らせん≫、≪キャリー≫など、怖い女ばかり、異常ともいえる情熱で演じきった。姫子の演技は見るものを圧倒し、演劇の盛んな大学や、劇団員からも多く支持された。
このまま行けば、実力派女優の道は難くないと思われていた2年の冬、貞子は突然演劇部を辞めてしまった。皆はおそらく本格的に演技の勉強でもするのだろうと噂した。
しかし、姫子の真の興味は演技には向けられなかった。
姫子は自分を振った男を徹底的に調査した。朝何時に起きて、夜何時に寝て、学校では何を食べて、友達は誰で、学校帰りに何をして、何が好きで、何が嫌いで、何が怖いかを。
調べてしまえば、やることは決まっていた。
男の嫌がることをする。
自宅の庭にかまきりの卵を羽化させ、体操着にガムをくっつけ、教科書に風俗のチラシを挟み、公衆電話から何度も無言電話をかけ、携帯メールから出会い系サイトのUTLを送り、掲示板にあることないこと書き立てた。
男は次第にイライラしだし、もともと悪い性格をさらに表面化させ、ちやほやしてくれていた周囲からも浮いていった。
特に可愛い女性徒の前では姫子の嫌がらせはエスカレートし、可愛い女の子たちに軽蔑のまなざしを向けられて、男は学校内で悪魔のように忌み嫌われ、唯一の取り柄だった顔までも醜く変貌を遂げつつあった。
ここにきて姫子はとうとう仕上げに掛かった。
男は高校生のくせに、悪い仲間と飲酒を繰り返していた。居酒屋でビールをしこたま飲んだ帰り道、ぼんやりとした目で近づいて来る女を見た。
長い前髪は顔の大部分を覆いつくし、裾の長いスカートが女の足首まで隠していた。両腕をだらんと垂らし、おぼつかない足取りで、俯きがちに段々とこちらへ近寄ってくる。
男は一気に酔いが醒め、来た道をUターンして引き返し始めた。よろよろと歩いてくるので、早足で歩けは男の足なら逃げ切れるはずだった。しかし、肌寒さを感じてふと振り向くと、すぐそこに女が迫っていた。長い前髪のすきまから、白目がちで吊り上った目がこちらを睨んでいる。
男は体中から血の気が引いていくのを感じて、その場に座り込んだ。
「……醜い。」
女は、舐め回すように全身をくまなく見回すと、つぶやくように繰り返し言った。
「醜い……醜い……醜い……醜い……」
上から、下から、右から、左から、ゆっくりと時間をかけて見回すと、ついに女は覆いかぶさるようにして男を押し倒した。
「うっ……、ウワー!! 」
男は緊張の糸が切れて気絶した。
女性は名を宇都宮姫子といい、真一の高校時代の同級生で25歳になる。
そもそもなぜ女性が≪貞子≫といわれるようになったかといえば、姫子は失恋を機に変わってしまい、男に復習をし始め、その姿が≪リング≫や≪らせん≫に出てくる貞子のように不気味だったためそう呼ばれるようになった。
姫子が好きになった男はいわゆるイケメンで、モデルやタレントとしてもやっていけるほど整った顔立ちをしていた。それゆえ、姫子も失恋するのは仕方のないことだとは考えていたのだが、男の振り方に問題があった。
「お前カン違いするなよ。顔の悪い女には生きる資格なんてないんだよ、ブスッ!! 」
姫子はそれまでは普通の女の子で、告白するのに至りそれなりに努力していたようだ。ファッション雑誌を買って服のセンスや化粧を学び、ダンスでシェイプアップし、演劇部で発声や笑顔の練習をし、万全の体制で告白に臨んだ。じっさい、選んだ男がその男でなければ上手くいったのではないかと思うほど、姫子はそれなりにモテていたようだ。
それが、心無い一言で女心をすべて失ってしまったのだ。
姫子は失恋したのち、慰めようと寄ってくる男を歯牙にもかけず、ひたすら演劇にうちこんだ。それも、≪四谷怪談≫やら≪番町皿屋敷≫、≪リング≫、≪らせん≫、≪キャリー≫など、怖い女ばかり、異常ともいえる情熱で演じきった。姫子の演技は見るものを圧倒し、演劇の盛んな大学や、劇団員からも多く支持された。
このまま行けば、実力派女優の道は難くないと思われていた2年の冬、貞子は突然演劇部を辞めてしまった。皆はおそらく本格的に演技の勉強でもするのだろうと噂した。
しかし、姫子の真の興味は演技には向けられなかった。
姫子は自分を振った男を徹底的に調査した。朝何時に起きて、夜何時に寝て、学校では何を食べて、友達は誰で、学校帰りに何をして、何が好きで、何が嫌いで、何が怖いかを。
調べてしまえば、やることは決まっていた。
男の嫌がることをする。
自宅の庭にかまきりの卵を羽化させ、体操着にガムをくっつけ、教科書に風俗のチラシを挟み、公衆電話から何度も無言電話をかけ、携帯メールから出会い系サイトのUTLを送り、掲示板にあることないこと書き立てた。
男は次第にイライラしだし、もともと悪い性格をさらに表面化させ、ちやほやしてくれていた周囲からも浮いていった。
特に可愛い女性徒の前では姫子の嫌がらせはエスカレートし、可愛い女の子たちに軽蔑のまなざしを向けられて、男は学校内で悪魔のように忌み嫌われ、唯一の取り柄だった顔までも醜く変貌を遂げつつあった。
ここにきて姫子はとうとう仕上げに掛かった。
男は高校生のくせに、悪い仲間と飲酒を繰り返していた。居酒屋でビールをしこたま飲んだ帰り道、ぼんやりとした目で近づいて来る女を見た。
長い前髪は顔の大部分を覆いつくし、裾の長いスカートが女の足首まで隠していた。両腕をだらんと垂らし、おぼつかない足取りで、俯きがちに段々とこちらへ近寄ってくる。
男は一気に酔いが醒め、来た道をUターンして引き返し始めた。よろよろと歩いてくるので、早足で歩けは男の足なら逃げ切れるはずだった。しかし、肌寒さを感じてふと振り向くと、すぐそこに女が迫っていた。長い前髪のすきまから、白目がちで吊り上った目がこちらを睨んでいる。
男は体中から血の気が引いていくのを感じて、その場に座り込んだ。
「……醜い。」
女は、舐め回すように全身をくまなく見回すと、つぶやくように繰り返し言った。
「醜い……醜い……醜い……醜い……」
上から、下から、右から、左から、ゆっくりと時間をかけて見回すと、ついに女は覆いかぶさるようにして男を押し倒した。
「うっ……、ウワー!! 」
男は緊張の糸が切れて気絶した。
更新日:2009-06-06 19:25:26