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 誠一は毎日仕事に出掛けているようで、判を押したように8時に家を出て7時には戻ってきた。仕事があるのなら家賃の滞納もないだろうと、美鶴も芳江も誠一の私生活にはほとんど触れなかった。
「何の仕事をしているんだろうね?」
「秋葉の怪しい店にでも勤めているんだろうか?」
「まさかロリコンで、小さい子に手を出すようなことはないだろうね……。」
「犯罪者を住まわせてたとあっちゃあ、営業停止になっちゃうからねえ。」
 ふたりは、近ごろ大輔と急接近中のカワイコちゃん桃ちゃんを見つめながら、誠一に対し随分と失礼なことを言い合った。
 桃ちゃんの母親は大輔の母親と同じ共働きで、7時過ぎごろ桃ちゃんを迎えに来る。その日もいつも通り図書館の窓から姿を現したので、桃ちゃんはあわてて外へ飛び出した。あわてていたので桃ちゃんは転んでしまい、周りにいた誰もが桃ちゃんに駆け寄った。しかし、一番早く桃ちゃんを抱き起こしたのは、誰あろう、ロリコンと疑われている誠一だった。
 ふたりは緊張した面持ちで二人を見守っていたが、桃ちゃんを抱き起こした誠一の顔は性犯罪者のそれではなく、むしろ父親か兄のそれであった。自愛に満ちていて、小さい子をいたわるようなまなざしで、桃ちゃんに声を掛けた。
「大丈夫?痛くない?」
 桃ちゃんは「だいじょうぶ!」と元気良く答えると、母親のもとへかけていった。
「偏見を持つのは良くないね。」
 ふたりは、太っていて服装のセンスが悪く汗臭い、アニメ雑誌をたくさん抱えたオタクを見かけても、全員が変態だと決め付けてはいけないと思うのだった。

更新日:2009-05-08 13:36:18

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