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ネットカフェ難民

 その日は忍者ショーが始まってから5回目で、子供は相変わらずたくさん集まっていた。中には親にねだって買ってもらった、黒や赤のハチマキをしている子もいる。
 「にんじゃ、はっとりかんぞう、ただいまさんじょう!ニンニン!」
 「にんぽう、このはがくれ!」
 「せっしゃ、こうがものでござる!」
 忍者ショーは特に台本があるわけではないので、子供たちはみんな思い思いの楽しみ方で、叫んだり走ったりしていた。
 「おのれえ、にがすかあ!」
 子供の一人が飛ばした手裏剣が、真一を通り越して、今しがた入ってきた客に当たってしまった。
 「あー!すみません、大丈夫ですか?」
 その客は、小太りで白いTシャツを汗でにじませており、半ズボンにサンダル履きという出で立ちで、両手に大荷物を抱えて入って来た。手裏剣が当たったことは別段気にしていないようで、了に手裏剣を渡すと図書館について尋ねてきた。
 「ここ、一部屋貸してくれる図書館ですよね?」
 「そうですよ、1時間500円で、1日だと3,000円です。さあどうぞ、お入りください。」
 了は客の荷物を持って、中ほどの丸テーブルまで誘導した。了が椅子を引いて座らせると、すかさず美鶴がパンフレットと冷たいジュースを差し出した。
 「あ、どうも。」
 客はのどが渇いていたのか、ジュースを一気に飲み干した。
 「ふ~。あのそれで、もしここを1ヶ月借りるといくらになるのですか?」
 了と美鶴は顔を見合わせた。今まで子供以外に毎日ここを利用した客などいないのだ。
 「毎日通われるのですか?そうですねえ…。」
 了が首をひねっていると、客はそうではないと言った。
 「通うんじゃなくて、ここに住みたいんです。ここマンションだったんでしょ?」
 これには、忍者ショーで子供に責められていた真一も、カウンターでお菓子を用意していた芳江も、びっくりして振り返った。
 「ここに住む?」


更新日:2009-04-23 23:43:29

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