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 次の日も大輔はやってきた。美鶴は了の作ってくれた“新料金表”を基に、母親に料金を還元した。新料金には子供料金が加算されており、大人の半額なので1日1,500円となり、2日間で受け取った6,000円から3日分の4,500円分を差し引き、1,500円をキャッシュバックした。
 迷惑をかけたのでどうしても支払うという母親に対し、今度は美鶴が頑として“規則だから”と受け取らなかった。“受け取ってください”、“受け取れません”の押し問答の末、母親もとうとう根負けして1,500円を受け取り仕事へ出掛けて行った。
 「いらないならおれにくれればいいのに。」
 「大ちゃん1,500円も何に使うのよ?どうせお菓子でしょ?」
 芳江が面白がって聞くと、大輔から意外な言葉が返ってきた。
 「ちがうよ。もうすぐ“ははのひ”だからな!ははのひはカ-ネーションと“そうば”がきまっている!」
 「どこで覚えたの、相場なんてことば!…でもお母さん思いでえらいね。」

 母の日と聞いて、芳江はいつ戻るかわからない母のことを思った。芳江の母はファッションデザイナーで、世界中を飛び回っている。今頃はきっとイタリアのミラノかフィレンツェ辺りだろうか。

 「おれは“かくていしんこく”も“せっとうはん”もしってるぞ!あっ、よっしーみろ!“せっとうはん”だ!」
 予想通り、コスプレ忍者は今日も現れた。芳江は大輔の耳元で囁いた。
 (いい、今日は“刺客”を呼んだから、静かに見守っていてね。)
 大輔は“刺客”の意味がわかっているふりをして、(おう!)と相槌をうった。
 芳江も美鶴もさすがに2日目ともなれば昨日ほど可笑しくはなく、平常心で仕事を続けることができた。
 コスプレ忍者は昨日と同じように、本棚を背にしてへばりつくと、左右をきょろきょろと見渡しながら走って、斜め向かいの本棚にへばりついた。斜め向かいの本棚でも、少しきょろきょろと見渡すと、走って更にその斜め向かいの本棚にへばりついた。そして段々とこちらに近づき、 少し広くなっている所まで出た。ここまでは昨日と一緒だった。
 昨日と違うのは、ここから“刺客”が現れるところだ。
 コスプレ忍者が昨日のように手を合わせようとしたとき、もうひとりの忍者が現れた。まるでアクションスターのようにバク転宙返りをすると、ストッとコスプレ忍者の前に着地し、手裏剣形の爆竹を投げた。するとコスプレ忍者は、右足と左足を交互にジャンプさせて出入り口方面に逃げ出そうとしたが、素早く投げられた網に捕まってしまった。
 「おぬし、伊賀者か?」
 網に掛かったコスプレ忍者は、バタバタともがいている。逃げ出そうとして必死だ。
 「忍法で逃げてはいかがかな?忍者どの。」
 しばらくバタバタともがいていたが、疲れたのか観念しておとなしくなった。
 「すいません、ぼくなかなか免許皆伝にならないもので。この衣装着ると、柳生十兵衛になった気持ちになるんですよ…。」
 もうひとりの忍者は自分の覆面を取った。
 「あ~あきらだ!」
 計画をひとりだけ知らされてなかった大輔は、了のアクションに釘付けだった。バク転宙返りは男の子ならずとも憧れる、華麗なパフォーマンスだ。
 了は網からコスプレ忍者を解放し、マスクを脱がせた。すると気の弱そうな二十代半ばくらいの顔が現れた。
 「あの巻物は、師匠のものです。ここから歩いて10分くらいの“柳生心眼流”の道場で師範をしております。ちょっとしたいたずら心でして…。」
 「本を万引きした上に、こんな大事なものまで持ち出すなんて、おまわりさんに電話しないといけないねえ。」
 美鶴がいたずらっぽく言うと、コスプレ忍者はあわてて言った。
 「お、お願いです!警察沙汰だけは勘弁してください!何でもしますから!」
 美鶴と了、芳江の3人は、顔を合わせてにやっと笑った。

更新日:2009-04-05 23:26:44

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