• 4 / 83 ページ

(3) ヤマに登る

意識が戻った銭形。

雪洞の中に立てたテントのようだ。薄暗くてよく見えないが、聞き覚えのある声。

「父つあん、しばらくお休みだ。たっぷり催眠ガス吸ってっから。」
「相変わらず無鉄砲さはお前以上だな、あの軽飛行機見たか、あの高さから、パラシュートで、半径数十メートルのこの山のてっぺんに辿り着こうてんだから。しかも酸素マスクなし。自殺行為だよ。」
「ナニ、昭和○けたは万事丈夫にできてんのよ。」

銭形、声を上げようとするが、ひどい頭痛と吐き気がする。視界の薄暗さは宵闇ではなく、めまいを起こしかけている自分の視覚だ。

クソッ!ここまできて。目の前に奴がいるのに、手も足も出ないときてる。俺は一体どうなっちまったんだ。

「ところでルパン、そろそろ話を聞かせてくれ。俺たちお前の言葉を信じて、半年この山ン中で付き合ってきた。」

相棒のタバコに火をつけながら次元。しばし、おたがいの煙の中。

「3年前にイギリスの退役軍人ちに「女王の首飾り」を盗みに入ったのを憶えてるか。」
「ああ、確かフランス王家に伝わる由緒ある宝だってのを、不二子の為に盗み出したって、あれか?」
「あれは俺の祖父さんがガキの頃に盗み出したっていういわくつきのお宝でな。訳あって、一度は持ち主の所へ返した。

ところが年月がたってその首飾りの持ち主が変わり、一般に公開されることになった。調べてみたらよくできた偽物だ。

いつ、本物と摩り替わったのか分かンねんだが、親父は、偽者を偽って返したと言われちゃ、ルパン家の名折れと、長年かけて本物を探し回った。

ま、俺が、たまたま見つけたのは運がよかったからなんだけっどもよ、不二子にプレゼントするはめになったから大変だ。騙し通すのに苦労したよ。」
「なるほど、あん時忍び込んだのは、盗むためじゃなく、本物を返すためだったのか。」

更新日:2015-10-10 23:25:05

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook