• 55 / 574 ページ

.      §6 幽影

 オババの家は遠い。
乗り継ぎをうまくしないとドンドン到着が遅くなる。
 JRを乗り継いで、降りた駅からバスに乗り、二つほど町を通り過ぎて、ようやくオババの住む一番奥の村に辿り着く。
バスはそこからグルッと山を回って、もとの駅に帰って行く。
だから、実質、オババの村のバス停が終点と言ってもいいくらいだ。
 もちろん、JRは途中で鄙びたローカル線に乗り換えなければならない。
採算が取れず廃止するかどうかで揉めた路線だ。
一時間に一本ぐらいしかない各駅停車の列車に乗ってゴトゴト進んで行く。
 大阪の町を走っている、たくさん車両が連なった長い電車ではなく車両は2つだ。
一つでもいいような気もするが、本線の近くでは朝夕の学生の利用があるから2つにしてあるのだろう。
 それでも先に行けば行くほど車両は人が居なくなって行く。
車両の扉から出て行く人はいるが、乗り込んでくる人は稀だ。
 この車両の扉も一応は自動ドアである。
でも、自動ドアと言っても全自動ではない。
こいつは半自動で、閉まるときだけ自動、開けるときは“よいしょっと!”と言いながら力任せに扉を自分で開けなければならないシロモノだ。
降りようと思って扉の前に立ち、扉が開くのを待っていると列車は突然発車してしまうのだ。
 俺がローカル線に乗り換えたのは、午後4時半ごろだった。
本線の列車を降り、立派なホームから階段を上がると陸橋が左右に真っ直ぐ伸びている。
多くの人はこの陸橋を右に曲がって駅舎の方に向かう。

更新日:2012-06-21 23:30:24

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook