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.      §3 青龍

 当時を振り返ると、村人に俺たちの名前を知らしめた事件が多々ある。
その中で最初のものが小学校1年のときの洪水事件である。
この事件で俺たちは、村でも指折りの悪ガキと知れ渡ってしまったのだ。
 オババの家からしばらく行くと、田圃に水を引くための“ため池”がある。
このため池は連なった田圃の一番奥で、西の山の少し手前にある
俺と雄一郎はここで魚釣りをしていた。
 ため池の土手から下に降りて水辺で竿を垂れる。
事前に畑で獲っておいたミミズを、みかんの空き缶から摘み出しエサにするのだ。
釣れるのはフナとモロコが多かったが、稀にちょっと大き目の鯉が釣れる。
 いつもだったらフナがポツポツ釣れるのに、この日は、ぜんぜん釣れなかった。
いわゆるボウズってヤツだ。

「 くそっ、止めだ、止めだ!!」

魚釣りの浮きが一向に引かないのに苛立って、俺たちは早々と中止宣言を行った。
 俺は汲んであったバケツの水を池にぶちまける。
さらに、腹立ち紛れに、二人とも釣竿を池に突っ込みグルグル掻き回す。
でも、水の抵抗で釣竿は池を上手く掻き回せず、かえって余計に腹が立った。
底から少し泥が巻き上がって来た程度なのだ。
 池には睡蓮のような植物の丸い葉っぱの群生があちこちに見える。
岸から6メートルほど、一番近い葉っぱの手前に手足をだらしなく広げたカエルが浮かんでいた。

更新日:2012-06-21 23:29:29

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