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第二幕



 第五場

 ゲルの中で、床に伏せっているメノワ。
 外の馬車の音に気付いたポポリが、メノワに語り掛ける。


ポポリ  奥さま、旦那さまと坊ちゃんがいらしたようですよ。
 見てきましょう。


 ポポリは慌ただしくゲルの外へと駆け出してゆく。
 天井を眺めているメノワは、ゆっくりと寝返りを打つ。
 弾むような元気な声とともにポポリに連れられた息子・エオが
 ゲルに飛び込んで来る。


エオ  マア! マア! どこ? あっ! マア!!

メノワ  エオ、マアはここよ……おっと、あらあら、元気なひと
 が来たわね。


 エオが母・メノワの傍に駆け寄り、布団に覆い被さるようにして
 嬉しそうに母に抱きつく。


エオ  エオね、良い子だったよ。だからポルの馬車に乗って来たの。

メノワ  うん。とっても良い子にしてるって、ポルがマアに教えて
 くれたわ、エオは偉いね。マアもエオに会えるまで、泣かないで
 良いマアでいるように頑張ったわ。


 ポポリに手伝って貰い、メノワが布団の中で身を起こす。
 傍らに置かれた乳母籠をエオが覗き込む。


エオ  わあ、赤ちゃんだ。ちいちゃいねえ。僕の“いもうと”
 でしょう? ポルが女の子だって、言ってたよ。

メノワ  そうよ。あなたの妹のアヌ・ユカラよ。

エオ  アヌ・ユカラ……“夕焼けの詩”?

メノワ  ええ。あなたと同じお空から名前をいただいたのよ。
 いい名前でしょう?


 エオが母の布団の傍にあぐらを掻いて座り込む。
 乳母籠を覗き込み、手を伸ばして妹・アヌ・ユカラの頭を撫でる。
 ポポリがそっと席を外し、ゲルから出て行く。


エオ  僕が昼間のお空で、ユカラが夕方のお空だね。

メノワ  ええ。あなたは“蒼天”ね。あなたが産まれた時、草原
 の上にはとてもきれいな青空が広がっていたのよ。マアが抱っこ
 したあなたの瞳には、深く澄んだ青空が映っていた……本当に、
 きれいだったわ。


 メノワの手のひらがエオの頭を撫でる。
 少し疲れたような母の様子に、エオが心配そうに尋ねる。


エオ  マア? まだ病気なの? ポルが都から薬草を持って
 きたからね。飲んで早く元気になってね。……あ、ポル!


 オウルフがゲルに入って来る。
 エオの隣にあぐらを掻き、乳母籠の中を覗き込んだ後、
 メノワの頬に指先を伸ばす。

更新日:2009-03-22 13:30:59

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