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 翌朝もまた快晴だった。
 目の奥に僅かに鈍痛を感じながら、ヴァレスは宿の階段を下りていく。背後から軽い足音を立てて、既に見慣れた金の髪が追い越していった。
 小さく悪態を呟きながら、あとに続く。
 若い二人にとっては二日酔いはさほど支障がなく、健康的な空腹を感じていた。
 一階の酒場では食事も取れるはずだが、しかしもう陽も高く昇っている時間にも関わらず人影は全くない。
 訝しげに立ち尽くす二人は、外に大勢の気配を感じた。
 扉を開くと、少し離れた広場に人々が集まっているのが見える。
「何かしら……。行ってみる?」
「そうだな。待ってても何も食えなそうだ」
 肩を竦めて、並んで道を歩き出す。
 人々は、どうやら何かを作っているようだ。金槌で釘を打つ音や鋸を引く音が響いてくる。
 広場の入口に立って、周囲を見渡す。と、町長であるカストールがそれに気づいた。にこやかな笑みを浮かべ、近づいてくる。
「おお、お早うございます、エリス様」
「お早うございます。これは、なんの騒ぎなのですか?」
 軽く会釈して、尋ねる。
 一際嬉しげな笑みとなって、カストールは両手を広げた。
「エリス様よりお知らせ頂いた情報を、私なりにじっくりと考えてみたのですよ。この街の発展のために何か使えないものかと」
 不審そうに眉を寄せて、男を見上げる。話が見えないヴァレスは、交互に二人に視線を向けていた。
 カストールが、背後を向く。
「おい、できたものを立ち上げろ!」
 男たちの野太い声が応じて、材木で組まれた、長さ八フィートほどの板状のものがゆっくりと立ち上がる。
 ぽかん、とエリスがそれを見つめる。
 鮮やかな塗料で塗られたそれには、見事な飾り文字でこう書かれていた。

『ようこそ!』
『神の威の及ばぬところへ!』

「これ以上ないほどの、町興しになることでしょう! 感謝しております、エリス様……」
 半ば恍惚とした表情でとうとうと述べていた町長は、ふと少女の様子に言葉を止めた。
 エリスの肩は、小さく震えている。
「エリス様?」
「……あ」
「あ?」
 小さく聞こえてきた声を、ヴァレスが繰り返す。
「あほかぁあああああああああ!」
 怒声と共に、エリスはカストールを殴りつけた。
 太った男の身体が、呆気なく吹っ飛ばされるのを、唖然としてヴァレスが見送る。
 ……ひょっとして、昨日は手加減されていたのだろうか。
 目の前の光景に危うく思考停止しそうになりながら、ぼんやりとそんなことを考える。
 周囲の音が一切止まった。
 住人たちの視線を集める先で、金髪の少女が鋭く呼吸をする。
「と、捕らえろ! この女を捕らえろぉおお!」
 片手で頬を抑え、片手でエリスを指さしながら、カストールは震える声で叫んだ。

更新日:2009-03-14 11:18:14

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