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「……で、なんでシスターが一人で東部なんかにいるんだ?」
 山道とはいえ、かなり麓に近くなっているため、さほど険しい訳ではない。ヴァレスは周囲に気を配りつつ、少女に尋ねた。
「教会の仕事です。……まあ、簡単に言うと、連絡を兼ねた布教活動ですね」
「布教?」
 ぴんとこなくて、繰り返す。
 教会は、この大陸で唯一の宗教団体だ。数世紀前には国家との軋轢や派閥の闘争もあったようだが、今は外から見る限り穏やかそのものである。
「東部は、西部とは全く違います。教会や聖職者の数も足りませんし、信仰心も西部とは比べものにならないほど、低い。……現状では致し方ないでしょう。ここは、過酷な土地です」
 憂いを帯びた瞳で呟く。
 過酷だ、ということに異議はない。東部に渡って二年程度しか経っていないが、ヴァレスは様々な状況に遭遇していた。故郷での生活が、ぬるま湯に思えるほどに。
 しかし、信仰心が低いというのはよく判らない。
 粗末ではあっても、街に一つは教会は存在しており、実直な人々は休日毎にそこへ通う。実直でない人々も多いが、しかしそれは西部でも一定の割合でいるものだ。
 東部がまだ貧しくて、献金が思うように集まらないのかもな、とヴァレスはスレたことを考えた。
 そこで、木々が視界から途切れる。東部の大地が、そこに広がっていた。
「あれが、カクトスだな」

 街道から分岐した道は、簡易的な門へと続いていた。長い棒を手に、一人の男が退屈そうに立っている。
 近づいてくる二人連れを見て、僅かに目を開いた。素早く、門扉を押し開く。
「シスターでいらっしゃいますか?」
「ええ」
 エリスが片手を十字架に触れさせる。
 うやうやしく、門番が脇へ退いた。
 教会関係者は、大抵の場合フリーパスだ。街に入る時は、一般の人間なら長々と誰何され、大抵の場合は袖の下を要求されるものだが、彼らに対してそういうことは一切ない。
 ヴァレスはそれに便乗し、門をエリスと一緒に通り抜けた。
「ああ、そうだ」
 少女が思い出したように振り返った瞬間、後ろめたさに小さく肩を震わせる。
「この街の責任者の方は、どちらへ行けばお会いできますか?」
 しかし、彼女はそんなことも知らなげに、門番にそう尋ねた。相手が聖職者というだけでなく愛らしい少女だということで、門番もにこやかに返事を返す。
「ああ、町長でしたら庁舎の方にいると思います。この道を真っ直ぐ行って突き当たりの建物ですよ」
「ありがとう。あなたに平安がありますよう」
 エリスがぺこりと頭を下げて足を進める。内心冷や汗を流しながら、ヴァレスはうやうやしくそれに従った。

更新日:2009-03-14 11:15:47

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