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Ⅴ 殺人現場

 下部デッキから螺旋階段をつかい上部デッキへ移動し、乗客キャビンに向かうとT字路にぶつかり、そこから左右に分岐した通路は、それぞれ奥に行くと直角に折れ曲がるため、螺旋階段からみると乗客キャビン通路はちょうど〝コ〟の字を描いたような形だ。
 左右に分かれる通路のうち、右舷側にあるのが十二部屋、左舷側にあるのが十三部屋となる。右舷側が左舷側より部屋数が一つ足りないのは、一部屋が掃除用具をしまう物置部屋となっているためで、それゆえ客室は二十五部屋となるのだ。
 船長とスチュワートの青年が案内した部屋は、乗客キャビン右舷側で最も奥となっている二〇号室であった。スチュワートの青年ミッシェルがドアを開けると、人の気配がない部屋から酒と煙草の匂いがしてきた。中居が部屋をのそきこむやいなや、
「ぎゃあーっ、しっ、死体ーっ!」
 と悲鳴をあげた。その中居を払いのけるように、佐藤が落ち着いた様子で部屋を検分すると、〝将軍様〟ご一行四名が全滅しているのが判った。
「やっぱり、こいつら殺されたか──」
「見ての通り、酒を飲みながらカードゲームに興じていたときに死んだようだ」 
と船長が説明をした。遺体はいずれもソファののけ反った格好になって死んでおり、争った様子もなければ外傷もなく、毒殺の可能性が高い。
 黄色い壁の部屋の中央には、アールヌーボー様式のテーブル、サイドテーブル、二つの椅子、壁際のソファーベッドが配置されていた。
 またテーブルには、ゲーム中のカード、人数分のグラス、飲みかけの白ワインボトル一本とグラス四個があった。さらに、サイトテーブルの上には呼び鈴、床には未開封のボトルが四本、開封されたボトルが三本置いてあった。
 船長は、シナモンを振り返って帽子を外し、
「ご婦人に死体なぞみせるべきではないと承知はしているのだが──先日、父上にお会いしたとき、君をこんなふうに自慢しておられた……」
 と、すまなそうにいって、また続けた。
「……姫、君は修道院修行時代、故郷のコンウォールに帰省したとき、地元警察が解決できなかったいくつかの事件を見事に解決したそうじゃないか。〝コンウォールの才媛〟という君の異名もこのときついたそうだね?」
シナモンはまだ部屋の中をみてはいない。その人が船長に、
「〝シルフィー〟が東京に着いたとき、地元警察に調べてもらうのが良いのではないでしょうか?」
 と率直にきくと、船長は激しく首を横に振った。
「そういうわけには行かない。警察が飛行船に立ち入るということは、お客様を飛行船に足止めすることになるし、運行にも支障をきたす。前にも話したように飛行船のフライトには莫大な経費がかかっているんだ。そして何より、こんな事件で、〝シルフィー〟が受けるイメージダウンを最小限にしたい」
「それには、東京到着後に警察に調べさせるのではなく、フライト中に事件を解決し、犯人を警察に引き渡したい。……と、そうおっしゃりたいのですね、船長?」
 老紳士が船長にそうきくと、船長は憮然として、「そうです」と短く答えた。

更新日:2009-07-06 18:13:24

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