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第四章

真っ暗だ・・・何も見えない・・・
なにも分からない、感じない・・・
すべての感覚がなくなっているの?
これが死ぬっていうことなのかな?

…ううん、違う。
唇に感じるかすかなぬくもり…ぬくもりと一緒に、何かがあたしの中に入り込んでくる。

これは・・空気?
そう感じて、感覚が再び戻り始めていくのがわかった。
幾千にも明滅して飛び交う光が、一つに収束するかのように、徐々にはっきりと意識が戻り始める。

「う・・・」

あたしはゆっくりと目を開けた。
途端に飛び込んできた、見覚えのある端正な整った顔立ちを確認して、あたしは驚きのあまりに目を大きく見開いた。

「ア…アルザス!?」

しかもおもいっきりドアップ。至近距離。まともに間近に顔があるので、あたしは動くこともできずに固まってしまった。

「大丈夫か?かなり水をのんでいたようだな」

「う‥うん…」

今までの出来事がやっと蘇ってきた。
海賊船「マーヴェリア号」での船旅。そしていきなり訪れた嵐。襲い掛かってきた大きな波に飲み込まれて落とされた、深い海の底。
あたしの頭は一瞬でパニックに陥ってしまった。

「なんでここにあなたが…?」

「説明ならあとでも十分だろう。それよりも先に少し休んだ方がいい。早く着替えて温まらないと」

「だ、大丈夫だよ!なんともないから…」

そういって立ち上がろうとしたけど、何故か体が言う事をきかない。あたしの足は、神経が途切れてしまったかのように動かなくなって、ガックリと前につんのめってしまった。すんでのところでアルザスが抱きとめてくれる。

「おそらく力を使いすぎたのだろう。しばらくは休んでいろ」

アルザスはひょいと軽々あたしを抱き上げた。

こ…この格好は…俗に言うオヒメサマダッコ!?
あたしの顔は恥ずかしさで、一瞬で火が付いたように真っ赤になった。

更新日:2008-12-13 21:17:56

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