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あたしはずぶ濡れになりながら、それでも何とか転ばないようにと必死で手すりにしがみ付くのがやっとだった。

それにしてもどうしていきなり…?
思いつくのは、さっきの青空に浮かんでいた怪しい生き物の姿。そいつが不思議な力を持っていて、この嵐を呼び寄せたのだとしたら…?

「お前、中に入ってろ!!

「でも…!!」

ヴァンに怒鳴りつけられたその時、船を越える高さのひときわ大きな波がうねり、船を飲み込まんばかりに近づいてきた。

どうしよう…このままじゃ…船が沈んでしまう!みんなが…!!
やだ…そんなの…みんなが…死んじゃうなんて…
そんなの…絶対いやだ…!!

そう思った瞬間、なにか不思議な力があたしの体を駆け抜け、その大きな力の衝撃に、あたしはビクンと体を震わせた。
同時に胸から吊り下げている石から光があふれ出す。

ふわり、とあたしの体が宙に浮かび、みるみる上昇した。マストの先辺りまで浮かび上がってそこでピタリと止まり、あたしは船を見下ろす格好となった。

みんなが一斉にこちらを見上げている。もちろん誰もが驚いた表情なのは言うまでもないけれど。

何が起こっているのか理解する間もなかった。
たちまち石から発した光と同じ光が船を包み込んだ。その直後、あたしの体は大きな波に飲みこまれ、海の底へと落とされてしまった。

容赦なく入り込んでくる塩辛い水に呼吸を奪われ、強い波の流れに抗うことも出来ずに、あたしはただ叩きつけるような水の衝撃に耐えられずに意識を失うしかなかった。

気を失う寸前、石が殊更強く輝いたような気がしたけれど、それを確かめることなんて、とても出来るはずもなかった。

更新日:2008-12-09 15:54:40

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