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第十四章
いやな予感はしていた。
聖女の神殿で、炎の竜の魂のかけらを持つものを見つけたときからずっと、漠然とした不安のようなものが、アルザスの胸の中に、沸き起こっていた。
何か、とてつもなく恐ろしいことが起こるのではないか。何処か自分の預かり知らぬところで、大いなる運命の歯車が動き始めているのではないか。
そしてそれは、自分ばかりではなく、この世界に破滅をもたらすやもしれぬ。最も恐れていたことがこれから起ころうとしている。そんな気がしてならなかった。
そして今、この小さな祠に現れた、見慣れた顔ぶれの二人の闖入者によって、それは漠然としたものから、ゆるぎない確信へと変わっていった。
「こんなところにいたのね、アルザス。そんなちゃちな結界如きで、このあたしの目をごまかせるとでも思ったの?」
扉を乱暴に開けて飛び込んできた、オレンジ色の髪の少女の変貌振りに、アルザスは内心目を見張ったが、それをあえて隠し、努めて冷静に言った。
「………シャルディ…ヴェルゴール…なにをしにきた?私をまた再び殺そうとでもしているのか?無駄だと思うがな」
「とぼけないで!あんたの命なんて、とりあえずどうでもいいの。それよりも…あんたが隠している大事なモノ、こっちに渡してもらうわよ」
「………何のことだ?」
「知らないとでも思っているの?あんたが二つめの炎の竜の魂の持ち主を、ここに隠しているってこと」
一瞬、アルザスの目が大きく見開かれたのを、シャルディは見逃さなかった。
「ウフフフ……どうやら図星のようね。こっちには全部お見通しなのよ!さぁ、こちらに渡してもらいましょうか?」
「『あれ』を渡すわけにはいかない!ここで貴様たちには今度こそ死んでもらうぞ!」
そういうと、アルザスは素早く剣を抜き放ち、剣の刀身に魔力を込め、魔法陣を描こうとした。が、それよりも素早く、シャルディが指先から真っ黒い糸のようなものを魔力で発生させて、アルザスの腕に絡めた。自由を奪われたアルザスの手から剣が抜け落ちる。床にぶつかった剣の渇いた音だけが、アルザスの耳に信じられないもののように響いた。
この素早い動き…そして今まで見たことがないこの魔力の糸…容貌だけではない。今までの彼女とはどこかが違う。そう感じたことが、アルザスの胸の中の不安を更に増大させていった。
「ウフフフ…無駄な足掻きはやめなさい。あたしはもう前のあたしとは違うのよ!」
「くっ!!」
「………感じるわ。ウフフフ……結界の中に更に結界を張るなんて、あんたも中々用心深いのね。そんなにあの炎の竜に元に戻って欲しくはないってことかしら?………まぁいいわ。丁度この下のあたりね?」
そういうと、何もないはずのこの小部屋の床に向かって、シャルディはおもむろに魔法を放った。衝撃波のようなそれに、床は見事に崩れて抜け落ち、更に下の階にある部屋の様子が見えてきた。
その下に見えた部屋の床に描かれた魔法陣の中に、少年のような姿をした石像があるのを認めて、シャルディはにやりと微笑んだ。そしてフワリと軽やかに宙に浮かんだかと思うと、自らが開けた穴をくぐって、下の階へと降りていく。
身を凍てつかさんばかりの衝撃に、アルザスは僅かの間、体を動かすことができなかった。
馬鹿な…「封印の間」の封印は、そうやすやすと破られるはずがないものなのに…!そもそも、万一の事態を考え、用心に用心を重ねて、この建物自体に、あの封印の間に、あの石像自体に…何重にも結界を張ったというのに。こうもやすやすと破られてしまうとは!
このような真似がいきなり出来るようになるだなんて、シャルディの身に一体何が起こったというのだ?
「見つけたわ。コレが炎の竜の魂の持ち主ね?……へぇ、結構可愛らしい顔してるじゃないの。フフ…… 」
シャルディが不敵な笑みを浮かべながら、苦もなく結界の魔法陣の中に入りこんで、石像の少年のほほに手を触れた。アルザスは我に返り、慌てて下の階へと移動した。
「あっ、シャルディ!石になっちゃってるじゃない、この子。どうするのさ?」
シャルディの肩に乗っていた黒猫ネオが、口を開いた。
「本当に用意周到なのね、アルザスは。これは術を掛けた本人にしか解けない、特殊な魔法だわ。これはさすがに、いくらこのあたしでも解くのは無理ね。でもそんなの簡単よ。術をかけたアルザス本人に、元に戻してもらえばいいだけの話………でしょ?」
視線を投げかけられて、アルザスは低く答えた。
「私が素直に従うと思っているのか?」
「従ってもらうまでよ、あたしのこの『ラミリスの魔女の力』でね!」
聖女の神殿で、炎の竜の魂のかけらを持つものを見つけたときからずっと、漠然とした不安のようなものが、アルザスの胸の中に、沸き起こっていた。
何か、とてつもなく恐ろしいことが起こるのではないか。何処か自分の預かり知らぬところで、大いなる運命の歯車が動き始めているのではないか。
そしてそれは、自分ばかりではなく、この世界に破滅をもたらすやもしれぬ。最も恐れていたことがこれから起ころうとしている。そんな気がしてならなかった。
そして今、この小さな祠に現れた、見慣れた顔ぶれの二人の闖入者によって、それは漠然としたものから、ゆるぎない確信へと変わっていった。
「こんなところにいたのね、アルザス。そんなちゃちな結界如きで、このあたしの目をごまかせるとでも思ったの?」
扉を乱暴に開けて飛び込んできた、オレンジ色の髪の少女の変貌振りに、アルザスは内心目を見張ったが、それをあえて隠し、努めて冷静に言った。
「………シャルディ…ヴェルゴール…なにをしにきた?私をまた再び殺そうとでもしているのか?無駄だと思うがな」
「とぼけないで!あんたの命なんて、とりあえずどうでもいいの。それよりも…あんたが隠している大事なモノ、こっちに渡してもらうわよ」
「………何のことだ?」
「知らないとでも思っているの?あんたが二つめの炎の竜の魂の持ち主を、ここに隠しているってこと」
一瞬、アルザスの目が大きく見開かれたのを、シャルディは見逃さなかった。
「ウフフフ……どうやら図星のようね。こっちには全部お見通しなのよ!さぁ、こちらに渡してもらいましょうか?」
「『あれ』を渡すわけにはいかない!ここで貴様たちには今度こそ死んでもらうぞ!」
そういうと、アルザスは素早く剣を抜き放ち、剣の刀身に魔力を込め、魔法陣を描こうとした。が、それよりも素早く、シャルディが指先から真っ黒い糸のようなものを魔力で発生させて、アルザスの腕に絡めた。自由を奪われたアルザスの手から剣が抜け落ちる。床にぶつかった剣の渇いた音だけが、アルザスの耳に信じられないもののように響いた。
この素早い動き…そして今まで見たことがないこの魔力の糸…容貌だけではない。今までの彼女とはどこかが違う。そう感じたことが、アルザスの胸の中の不安を更に増大させていった。
「ウフフフ…無駄な足掻きはやめなさい。あたしはもう前のあたしとは違うのよ!」
「くっ!!」
「………感じるわ。ウフフフ……結界の中に更に結界を張るなんて、あんたも中々用心深いのね。そんなにあの炎の竜に元に戻って欲しくはないってことかしら?………まぁいいわ。丁度この下のあたりね?」
そういうと、何もないはずのこの小部屋の床に向かって、シャルディはおもむろに魔法を放った。衝撃波のようなそれに、床は見事に崩れて抜け落ち、更に下の階にある部屋の様子が見えてきた。
その下に見えた部屋の床に描かれた魔法陣の中に、少年のような姿をした石像があるのを認めて、シャルディはにやりと微笑んだ。そしてフワリと軽やかに宙に浮かんだかと思うと、自らが開けた穴をくぐって、下の階へと降りていく。
身を凍てつかさんばかりの衝撃に、アルザスは僅かの間、体を動かすことができなかった。
馬鹿な…「封印の間」の封印は、そうやすやすと破られるはずがないものなのに…!そもそも、万一の事態を考え、用心に用心を重ねて、この建物自体に、あの封印の間に、あの石像自体に…何重にも結界を張ったというのに。こうもやすやすと破られてしまうとは!
このような真似がいきなり出来るようになるだなんて、シャルディの身に一体何が起こったというのだ?
「見つけたわ。コレが炎の竜の魂の持ち主ね?……へぇ、結構可愛らしい顔してるじゃないの。フフ…… 」
シャルディが不敵な笑みを浮かべながら、苦もなく結界の魔法陣の中に入りこんで、石像の少年のほほに手を触れた。アルザスは我に返り、慌てて下の階へと移動した。
「あっ、シャルディ!石になっちゃってるじゃない、この子。どうするのさ?」
シャルディの肩に乗っていた黒猫ネオが、口を開いた。
「本当に用意周到なのね、アルザスは。これは術を掛けた本人にしか解けない、特殊な魔法だわ。これはさすがに、いくらこのあたしでも解くのは無理ね。でもそんなの簡単よ。術をかけたアルザス本人に、元に戻してもらえばいいだけの話………でしょ?」
視線を投げかけられて、アルザスは低く答えた。
「私が素直に従うと思っているのか?」
「従ってもらうまでよ、あたしのこの『ラミリスの魔女の力』でね!」
更新日:2009-08-05 18:28:52