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第九章
「きゃぁぁぁっ!!」
どおおおん。
あたしの悲鳴が上がるたびに、氷の塔が細かく震えた。
一体これで何度目だろう。一面が青と白の、色彩の氷で彩られた氷の塔の内部は、異様なまでに気温が低く(建物の内部だって言うのに)床も壁も、これでもかっていうくらいにツルツルと滑る。
何度も何度も転んで、したたかにお尻をぶった。もう黙っているだけでもジンジンとする。もしかしたら…いや、きっと青あざができているに違いない。そばにいる誰彼に掴って、難を逃れたこともあるけれど、転んだ回数のほうが圧倒的に多い。
あたしだけじゃない。ヴァンもフォンも、グランもウィンも、何度となく足を滑らせ、転びかけている。(でも転んでいるのは、運動音痴なあたしだけなのが、自分でも情けない)
フレイは、傍から見たら、あたしたちと同じように、地面に足をつけて歩いているように見えるけれど、実際は、エルフの不思議な力で、ほんの少しだけ地面から浮いている。この小癪な床に、足を滑らせることも、その冷たさに足を凍えらせる事もない。全く、羨ましいことこの上ないとは、このことだよ。
「ずるいなぁ、フレイは」
って、あたしがつい愚痴りたくなる気持ちもわかって欲しいよ。
「まぁまぁ、未散。カリカリしないで。なんなら回復魔法掛けてあげましょうか?」
お尻をさするあたしに、フォンがなだめるようにして言った。
「ううん、いらない。そんな情けない理由で、大事な魔力使わないでよ。またいつ魔物が攻めてくるかわかんないんだから」
ため息交じりで漏らされた、その言葉を待っていたかのように、まるで大きなツララのような、太い氷の柱から、また魔物が数匹でてきた。
「…またかよ…」
戦闘好き(もとい、運動好き)のヴァンも、さすがにうんざりした顔をしている。
この塔の魔物自体は、この伝説の竜たちにとっては、たいして強い敵じゃない。やっかいなのは、この小憎らしい床。このツルツルした床のせいで、ヴァンたちは思うように足を踏ん張って、武器を振るうことが出来なくなって、思わぬ苦戦を強いられている。
しかも数だけはやたらといて、戦闘を重ねるごとにみんなの気力をそいでいってしまっている。
半ばやけくそのように繰り出した攻撃を空ぶったり、足元を掬われかけたりしながらも、ようやっとザコ敵をやっつけた後で、みんなはなんともやりきれないような顔を見合わせた。
「くそっ!いったいどうなってんだよ!?何で先に進めねぇんだ!?」
元来底抜けに陽気なグランまでが、珍しく悪態をついている。みんな揃ってげっそりしているのは、何もこの憎たらしい床と、うじゃうじゃ出てくる魔物のせいだけじゃない。
あたしたちはかれこれ何時間も同じフロアをぐるぐると回っているんだ。なのに、一向に上に進む階段を見つけ出せずにいる。
あたしたちが今いるのは、地上から4階分くらい上がったフロア。ここから上に登る階段がこれだけ探しても見つからないんだ。この氷の塔に入る前に外から見た感じじゃ、もっともっと階層があってもいいくらいの高さだったのに。
もしやどこか下の階で、別の階段を見落としたのではないか、と何度も上ったり降りたりを繰り返して、下の階をくまなく探し回ったけれど、いくつかあった階段は、登ってもすぐに行き止まりだったりするだけ。すっかりお手上げ状態。
みんなすっかり気力が失せてしまって、ぴりぴりした空気が漂っている。まずいな…ただでさえ、異常に寒いところにいて、みんな体力、いつも以上に消耗しているのに。
なんとかしなきゃ。
落ち着け…落ち着くんだ…
こんなときこそ、RPG大好きっ子の本領発揮のときじゃない?
ダンジョンとかでも時々こういったことってあるよね?そのときはどうやって先に進んだ?
よーーーっく考えるんだ。考えるんだ…
「う~ん…う~ん…」
「だ…大丈夫?未散」
うなり声を出しながら頭を抱えた、そんなあたしの様子に、フォンが心配そうに声をかけた。あたしからの返事は「あ!!」という大きな声。
「そうだ!!…ヴェイゼリヌス・リディスク・アルハ!!」
高々と唱えて、背中に生やした、おなじみの翼をはためかせ、あたしはフロアの天井目指して浮かび上がった。そして手の平を天井にまっすぐに向ける。
そうだよ…床も柱も、みんな氷で出来ているのなら…
どおおおん。
あたしの悲鳴が上がるたびに、氷の塔が細かく震えた。
一体これで何度目だろう。一面が青と白の、色彩の氷で彩られた氷の塔の内部は、異様なまでに気温が低く(建物の内部だって言うのに)床も壁も、これでもかっていうくらいにツルツルと滑る。
何度も何度も転んで、したたかにお尻をぶった。もう黙っているだけでもジンジンとする。もしかしたら…いや、きっと青あざができているに違いない。そばにいる誰彼に掴って、難を逃れたこともあるけれど、転んだ回数のほうが圧倒的に多い。
あたしだけじゃない。ヴァンもフォンも、グランもウィンも、何度となく足を滑らせ、転びかけている。(でも転んでいるのは、運動音痴なあたしだけなのが、自分でも情けない)
フレイは、傍から見たら、あたしたちと同じように、地面に足をつけて歩いているように見えるけれど、実際は、エルフの不思議な力で、ほんの少しだけ地面から浮いている。この小癪な床に、足を滑らせることも、その冷たさに足を凍えらせる事もない。全く、羨ましいことこの上ないとは、このことだよ。
「ずるいなぁ、フレイは」
って、あたしがつい愚痴りたくなる気持ちもわかって欲しいよ。
「まぁまぁ、未散。カリカリしないで。なんなら回復魔法掛けてあげましょうか?」
お尻をさするあたしに、フォンがなだめるようにして言った。
「ううん、いらない。そんな情けない理由で、大事な魔力使わないでよ。またいつ魔物が攻めてくるかわかんないんだから」
ため息交じりで漏らされた、その言葉を待っていたかのように、まるで大きなツララのような、太い氷の柱から、また魔物が数匹でてきた。
「…またかよ…」
戦闘好き(もとい、運動好き)のヴァンも、さすがにうんざりした顔をしている。
この塔の魔物自体は、この伝説の竜たちにとっては、たいして強い敵じゃない。やっかいなのは、この小憎らしい床。このツルツルした床のせいで、ヴァンたちは思うように足を踏ん張って、武器を振るうことが出来なくなって、思わぬ苦戦を強いられている。
しかも数だけはやたらといて、戦闘を重ねるごとにみんなの気力をそいでいってしまっている。
半ばやけくそのように繰り出した攻撃を空ぶったり、足元を掬われかけたりしながらも、ようやっとザコ敵をやっつけた後で、みんなはなんともやりきれないような顔を見合わせた。
「くそっ!いったいどうなってんだよ!?何で先に進めねぇんだ!?」
元来底抜けに陽気なグランまでが、珍しく悪態をついている。みんな揃ってげっそりしているのは、何もこの憎たらしい床と、うじゃうじゃ出てくる魔物のせいだけじゃない。
あたしたちはかれこれ何時間も同じフロアをぐるぐると回っているんだ。なのに、一向に上に進む階段を見つけ出せずにいる。
あたしたちが今いるのは、地上から4階分くらい上がったフロア。ここから上に登る階段がこれだけ探しても見つからないんだ。この氷の塔に入る前に外から見た感じじゃ、もっともっと階層があってもいいくらいの高さだったのに。
もしやどこか下の階で、別の階段を見落としたのではないか、と何度も上ったり降りたりを繰り返して、下の階をくまなく探し回ったけれど、いくつかあった階段は、登ってもすぐに行き止まりだったりするだけ。すっかりお手上げ状態。
みんなすっかり気力が失せてしまって、ぴりぴりした空気が漂っている。まずいな…ただでさえ、異常に寒いところにいて、みんな体力、いつも以上に消耗しているのに。
なんとかしなきゃ。
落ち着け…落ち着くんだ…
こんなときこそ、RPG大好きっ子の本領発揮のときじゃない?
ダンジョンとかでも時々こういったことってあるよね?そのときはどうやって先に進んだ?
よーーーっく考えるんだ。考えるんだ…
「う~ん…う~ん…」
「だ…大丈夫?未散」
うなり声を出しながら頭を抱えた、そんなあたしの様子に、フォンが心配そうに声をかけた。あたしからの返事は「あ!!」という大きな声。
「そうだ!!…ヴェイゼリヌス・リディスク・アルハ!!」
高々と唱えて、背中に生やした、おなじみの翼をはためかせ、あたしはフロアの天井目指して浮かび上がった。そして手の平を天井にまっすぐに向ける。
そうだよ…床も柱も、みんな氷で出来ているのなら…
更新日:2009-02-02 19:45:28