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「魔竜をどうなさるおつもりなのですか?…そういえば、先ほどアルザス様を殺すとか、なんとか、おっしゃっていましたねぇ・・・?」

アルザスを、『様』と呼んだことに、目ざとく気が付き、シャルディは、おそらく隠しても意味がないだろうことを悟った。

おそらくこいつは、かなり事情に通じている。もしかしたら、ゼノン様のことも知っているのではないか、と。

「…そうよ。ゼノン様の命令でね。だとしたら、なんだというの?」

「フフフフフフ…やはりそうでしたか…。お互いに命を狙い合うとは、やはり双子というのは、行動や考え方まで、似てしまうものなのでしょうかねぇ?悲しいですねぇ…血を分けた、たった二人きりの兄弟なのに…」

ピログのこの言葉に、シャルディはもちろん、今まで黙って事の成り行きを見守っていた、ヴェルゴールまでもが、さっと顔色を変え、驚愕の表情を浮かべた。

「なん…だって?双子?」

「おやおや?あなたたちは、お仕えしている主様(あるじさま)のこと、何もご存じないのですか?フフフフ…」

思わず言葉を詰まらせた二人に向かって、ピログは更に続けた。

「フフフフフフ…そうですよ。アルザス様と、ゼノン様は、双子の兄弟なのです。そして更に言うとですね、お二人は他でもない、魔王様の大事な皇子様たちなのですよ。フフフフフフ…」

二人の目は、更に驚きに見開かれた。

今まで、そう思わないこともなかった。あまりにも似すぎている、同じ顔の二人。もしや、血縁のものではないか、と心のどこかで思ってはいた。だが、自分のことを一切語ろうとはしない主の態度に、ことの真偽を確認できずにいた。

だが、それにしてはおかしい。一体どういうことだろうか?ゼノンは魔族特有の耳や角、牙を有しているが、アルザスにいたっては、外見は人間そのものだ。同じ親から生まれたのであれば、これでは矛盾が生じる。
…もしかしたら、魔法か何かで、魔族の特徴を隠し、人間に姿を変えているのだろうか?

僅かな刹那の間に、いろんな考えが頭の中をめぐる。

「おや?お二人とも、驚いて言葉も出ませんか?フフフフフフ…申し訳ありませんねぇ、今日は私、多少おしゃべりなようですね。聖女様に出会えて、気が昂ぶっているんでしょうかね?フフフフフフ…」

と、これまでシャルディの肩で、沈黙を守ってきた黒猫のネオが、ひょいと飛び降り、ヴェルゴールとシャルディの前に立った。

「やれやれ、これ以上余計なことを言われると、困るんだよね。…仕方ない。ボクがさっさとやっちゃうよ。いいね?」

そういうと、ネオは、二人の返事を待たずに、鋭く目を光らせ、闇夜の森の色をした竜…シュハイド…を睨み付けた。
とたんに、シュハイドのダークグリーンの瞳が、ネオと同じ、金色に変わっていく。

更新日:2009-01-13 13:39:14

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